惣村

惣村とは

惣村（そうそん）とは、中世日本において、農民たちが自発的に形成した自治的な共同組織のことです。惣とも呼ばれ、地縁に基づいた村落共同体として、様々な活動を行いました。

惣村の歴史

成立

平安時代後期から鎌倉時代中期にかけての荘園公領制下では、農民は領主や名主に従属し、彼らの生活は「名」と呼ばれる土地を中心とするものでした。この時代には、農民の住居は散在しており、村落という形態はまだ見られませんでした。

しかし、鎌倉時代後期になると、地頭が荘園や公領への支配を強めるようになり、従来の荘園公領制が変質し始めました。そうした中で、農民たちは水利の確保、道路の整備、紛争の解決、自衛などの必要性から、地縁的な繋がりを強め、集まって住むようになりました。これが惣村の始まりです。惣村は、その範囲内に住む全ての構成員によって形成されたため、「惣」という名前が付けられました。

発展

惣村は、主に稲作が盛んな近畿地方とその周辺、そして北陸の一部に発展しました。さらに、複数の惣村が結合し、惣荘や惣郷と呼ばれるより大きな共同体を作ることもありました。これらの地域では、農民の自立意識が強く、惣村が最も発達しました。

一方、東北、関東、九州など、畿内から離れた地域では、惣村よりも広い範囲で緩やかな村落結合である郷村が形成されました。

室町時代になると、守護の権力が強化され、荘園や公領への介入が増加しました。このため、惣村は自治を守るため、守護や国人といった実力者と関係を深めました。惣村の有力者の中には、武士となる者も現れました（地侍）。

最盛期と衰退

惣村は、室町時代中期（15世紀）ごろに最盛期を迎え、応仁の乱などの戦乱に対応するために自治能力を非常に高めました。

しかし、戦国時代に入ると、戦国大名による支配が強まり、惣村の自治権は次第に奪われていきました。最終的には、豊臣秀吉による兵農分離や太閤検地によって惣村という形態は消滅し、江戸時代の近世村落へと移行しました。

惣村の構成員

惣村の構成員は、平等意識と連帯意識で結びついていました。惣村には、以下のような指導者や構成員がいました。

乙名

乙名（おとな）は、長老や年長者であり、村の代表として、年貢の徴収や用水の管理など、様々な問題の解決にあたりました。乙名は、村の祭祀を行う宮座の代表者から選ばれることが多く、複数人で構成されていました。有力な農民が選ばれることが多かったようです。

沙汰人

沙汰人（さたにん）は、もともと荘園領主や荘官の代理人として、命令や判決を執行する役割を持っていました。しかし、惣村が発達すると、惣村の指導者となることもありました。乙名が村の構成員から選ばれたのに対し、沙汰人は世襲制である点が異なっていました。

若衆

若衆（わかしゅ）は、乙名になる前の若い男性で、警察、自衛、消防、工事、耕作など、共同体の労働の中心を担いました。女性は、原則として惣村の構成員には含まれませんでしたが、後家（寡婦）は認められる場合もありました。

惣百姓

惣村が形成された当初は、構成員は乙名のみでしたが、次第に一般の農民（地下人）も加わるようになりました。宮座に参加を認められた農民は、惣百姓と呼ばれ、惣村の構成員として認められました。

惣村の自治

惣村は、独自の自治組織として、様々な活動を行いました。

寄合

村の重要事項は、惣村の構成員が集まる寄合（よりあい）という会議で決定しました。寄合では、村の掟を定め、違反者には罰を与えることもありました。

惣掟

惣村は、惣掟（そうおきて）という独自の規約を定め、村の秩序を維持しました。惣掟に違反した場合には、追放、財産没収、身体刑、死刑などの処罰が行われました。この権限を自検断（じけんだん）といいます。

地下請

年貢の徴収は、従来、領主や地頭が行っていましたが、惣村が成立すると、惣村が一括して年貢納入を請け負う地下請（じげうけ）が広く行われるようになりました。これにより、惣村の責任がより強くなりました。

惣有財産と共同活動

惣村は、森、林、山などの土地を惣有財産とし、村人が共同で利用しました。また、神社の維持や農業用水の管理、道路の整備、共同耕作など、生活に必要な様々な活動を主体的に行いました。

惣村の連帯と一揆

惣村は、支配者や他の村に対して要求を行う際には、一揆（連合、同盟）を結成して行動しました。この一揆は、心を一つにして行動することを意味し、参加者が対等の立場で連帯を深めました。

土一揆

惣村が起こした一揆を土一揆（つちいっき）と呼びます。土一揆は、15世紀に多発し、徳政令の発布を要求するものが多かった（徳政一揆）。その他にも、年貢の減免や支配者の退去などを要求する一揆も発生しました。

戦国時代になると、戦国大名による支配が強化され、土一揆の発生は減少しました。

惣村の終焉と影響

惣村は、戦国大名の支配強化や豊臣秀吉の政策によって消滅しましたが、その自治的な性格は、近世村落にも受け継がれ、村請制度や村の維持に大きな役割を果たしました。

惣村は、中世日本の農民が、自らの手で村を運営し、生活を守ろうとした、力強い姿を示すものです。

惣村