愛新覚羅慧生

愛新覚羅慧生（あいしんかくら えいせい）

愛新覚羅慧生は、1938年2月26日に満州国新京（現在の長春市）で、清朝の皇族である愛新覚羅溥傑と嵯峨浩の長女として生まれました。父の溥傑は清朝最後の皇帝・溥儀の実弟であり、母の浩は日本の侯爵家出身でした。彼女は、激動の時代を生き、1957年に19歳という若さで天城山心中という悲劇的な結末を迎えた女性として知られています。

生涯

幼少期から日本へ

慧生は、生後まもなく父の溥傑が満洲国駐日大使館に勤務となったため、家族と共に東京に移り住みました。その後、一家は新京に戻り、慧生は皇帝である伯父の溥儀に大変可愛がられました。1943年春、慧生は学習院幼稚園に入園するため再び日本に渡り、母の実家である嵯峨家に預けられました。この時以降、亡くなるまで日本で過ごすことになります。同年秋、父が陸軍大学校に入学するため、家族は東京で暮らすことになりますが、1944年12月、父の卒業に伴い家族が満州へ戻った後も、慧生は学校の都合で日本に残り、再び嵯峨家で生活を送ることになりました。羽田空港で父を見送ったのが、父との永遠の別れとなりました。

戦後の混乱と家族の再会

1945年、日本の降伏により満洲国は解体され、父の溥傑はソ連軍に捕らえられ、長らく獄中生活を送ることになります。一方、母の浩と妹の嫮生は中国大陸を転々とした後、1947年に日本に帰国し、慧生のいる嵯峨家で共に暮らすようになりました。

学業と中国への関心

慧生は学習院初等科、女子中等科、女子高等科と進学しました。中等科に進む頃から中国語の学習を始め、高等科在学中の1953年には、中国の周恩来首相に宛てて中国語で手紙を書き、父に会いたいという気持ちを伝えました。この手紙がきっかけで、長らく連絡が途絶えていた父との文通が許されるようになりました。高等科3年の時に東京大学中国哲学科への進学を希望しましたが、親族の反対にあい、1956年に学習院大学文学部国文科に入学しました。

恋愛と悲劇

大学在学中、慧生は同じ学科の男子学生Oと交際を始めますが、家族には打ち明けることができませんでした。1957年12月4日、慧生はOと天城山で心中したと推察されています。2人の遺体は12月10日に発見され、世間を大きく騒がせる事件となりました。嵯峨家側はOによる無理心中であると主張しています。

死後の経緯

慧生の遺骨は、1961年に中国に帰国する母の浩によって北京に運ばれました。当初は醇親王家の墓地に埋葬される予定でしたが、文化大革命の混乱を経て、両親の意向により一部は日本に帰国し、嵯峨家の菩提寺である二尊院に外祖父母と共に納骨されました。その後、1987年に母の浩が亡くなると、その遺骨と共に愛新覚羅社に移されました。1994年に父の溥傑が亡くなると、中国に残っていた遺骨は、両親と共に北京郊外の妙峰山上空に散骨されました。

慧生と中国

慧生は幼少期から日本で生活していましたが、中国への関心を強く抱いていました。読書家であり、中国文学や漢詩、清朝に関する書物を好んで読んでいました。1955年には、父の従弟である溥儒が来日した際に通訳を務め、溥儒から「佩英」という号を授けられました。この頃から、慧生は中国人としての自覚を一層強く持つようになり、普段から中国服を好んで着るようになりました。しかしその一方で、大学時代には親友に中国へ帰国する意思がないことを打ち明けています。

趣味

慧生は音楽にも関心があり、ピアノやヴァイオリンを習っていました。4歳の頃には皇帝からピアノを贈られ、李香蘭と同じ講師に師事しました。その後、ヴァイオリンも始め、満州では皇帝のピアノ伴奏に合わせて演奏していました。学習院入学後は鈴木鎮一の指導を受け、豊田耕児も共に学んでいました。1942年には、満州国建国10周年を記念して高松宮が来満した際、「高松宮殿下奉迎歌」を日本語と中国語で歌い、レコードを制作しています。

人物評価

妹の嫮生は、慧生を「ユーモラスで頭の良い人だが、威厳があり近付き難いところがあった」と評しています。中国の周恩来首相は、慧生が書いた手紙を読み、「あのような勇敢な子が好きだ」と語っています。

慧生を演じた女優

慧生の生涯は、映画やテレビドラマで何度も描かれています。主な作品と演じた女優は以下の通りです。

映画
三ツ矢歌子:『天城山心中 天国に結ぶ恋』（1958年）※役名は「王英生」
高野通子:『流転の王妃』（1960年）※役名は「呼倫覚羅英生」
テレビドラマ
早瀬英里奈、森迫永依:『流転の王妃・最後の皇弟』（2003年）
田畑亜弥:『日本史サスペンス劇場』（2008年）※再現ドラマ


愛新覚羅慧生は、その短い生涯の中で、激動の時代に翻弄されながらも、強く生きた女性でした。彼女の人生は、多くの人々に深い感銘を与え続けています。

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