愛生経

愛生経について

『愛生経』（あいしょうきょう）は、パーリ仏典の中に収められている重要な経典であり、第87経にあたります。この経典では、愛や愛着が如何にして人々に苦をもたらすかというテーマが中心に語られています。その教えは、コーサラ国の王であるパセーナディと彼の周囲の人々に深く影響を及ぼします。

経典の背景と登場人物

『愛生経』は、いくつかの関連する経典とともに位置づけられます。例えば、漢訳の『中阿含経』や『婆羅門子命終愛念不離経』なども、同様のテーマを持つ文献として知られています。この経典の中では、釈迦が登場し、愛とその苦悩について教えを説く場面が展開されます。

重要な登場人物には、以下のような人物がいます。

• - 釈迦: 仏教の開祖であり、愛着の本質について学びを説く者。
• - 長者: 一人息子を亡くし、深い悲しみを抱える人物。
• - パセーナディ: コーサラ国の王で、愛についての真理を探求する。
• - マッリカー: パセーナディの妃で、釈迦の教えに関心を持つ。
• - ナーリジャンガ: 婆羅門で、愛の教えを学ぶために釈迦を訪ねる。

教えの核心

物語は、釈迦がコーサラ国の舎衛城にあるアナータピンディカ園に滞在しているところから始まります。そこで、ある長者が一人息子を失い、心の痛みに苛まれているという悲しい状況があります。

釈迦は長者に向かい、「愛着が苦悩の原因である」と説きます。しかし、その長者は「愛着は喜びを生むもので、苦悩の原因ではない」と反論し、不快な思いを抱えたまま帰ってしまいます。この出来事は、釈迦の教えがすぐに受け入れられるわけではないことを示しています。

この話を耳にしたコーサラ国の王、パセーナディは、妃のマッリカーのために、釈迦の教えについてさらに学ぶことを決意します。彼は、ナーリジャンガを介して釈迦に出会い、愛する者を失ったときの女性の喩えを通じて、「愛着から苦悩が生じる」という教えを理解するに至ります。これにより、彼は三宝への帰依を誓うことになります。

このように、『愛生経』は愛という感情がどのように人々に影響を与えるのか、そしてそれがもたらす苦悩についての深い教訓を提供しています。本経典は、聖典の中でも特に人々の心に響く教えが詰まったものとされています。

参考文献

• - 『南伝大蔵経・経蔵・中部経典3』（第11巻上） 大蔵出版
• - 『パーリ仏典 中部（マッジマニカーヤ）中分五十経篇II』 片山一良訳 大蔵出版
• - 『原始仏典 中部経典3』（第6巻） 中村元監修 春秋社

さらに、関連する概念としては『縁起』や『十二因縁』、そして『四苦八苦』が挙げられます。これらの教えは、人間の根本的な苦しみを理解し、解消するための手助けを提供してくれます。

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