感応寺 (豊島区)

感応寺（かんのうじ）とは

感応寺は、江戸時代に武蔵国豊島郡、現在の東京都豊島区目白の鼠山に存在した日蓮宗の寺院です。山号は長曜山と称していました。その歴史は、天台宗から日蓮宗への改宗運動、大規模な伽藍の建立、そして幕府による破却という、激動の歴史を辿りました。

再興運動と建立

感応寺の前身は、天台宗の寺院でしたが、1833年（天保4年）に中山法華経寺の智泉院の日啓とその娘である専行院らが中心となり、日蓮宗への再改宗運動が起こりました。林肥後守、美濃部筑前守、中野播磨守といった幕府の要人もこの運動に関与しました。当初、輪王寺宮・舜仁法親王の働きかけによって日蓮宗への改宗は中止となりましたが、別の土地での再興が認められ、谷中にあった感応寺は護国山天王寺と改称されました。

1835年（天保6年）、安藤対馬守の下屋敷跡28,600坪余が寺に下賜され、長曜山感応寺の建設が開始されました。翌1836年（天保7年）には、本堂、五重塔、経堂、鐘楼、庫裡、僧坊、書院、釈迦堂、鎮守堂、宝蔵、惣門、山門、中門といった壮麗な伽藍が完成しました。

破却とその後

しかし、感応寺の繁栄は長くは続きませんでした。1841年（天保12年）に徳川家斉が死去すると、水野忠邦による天保の改革が始まり、寺社奉行に阿部正弘が任命されました。この改革の一環として、智泉院の日啓は女犯の罪で捕らえられ、遠島を宣告された後に牢死します。これと同時に、長曜山感応寺は破却を命じられます。

廃寺となった感応寺の本尊（鎌倉時代作）は池上本門寺へ、祖師像は鎌倉薬王寺へ、伽藍の材木は鎌倉妙本寺などへ送られました。池上本門寺の本尊は東京大空襲で焼失し、妙本寺の材木は後に身延山久遠寺祖師堂の再建に利用されました。

発掘調査

2000年（平成12年）には、豊島区教育委員会によって発掘調査が行われ、目白4丁目から本堂の礎石が出土し、かつてそこに感応寺が存在したことが証明されました。

誤伝と真実

感応寺に関しては、いくつかの誤った情報が流布しています。大谷木醇堂の「燈前一睡夢」には、徳川家斉の側室であった専行院が、感応寺の建立を家斉に願い、実父である日啓を住職にしたと記されています。しかし、実際には日啓が感応寺の住職になった事実はなく、感応寺は池上本門寺が主導して建立されたものであり、専行院が家斉に懇願したという説は誤りです。

また、専行院の手引きで感応寺の僧侶と大奥の女中が密通を繰り返し、それが原因で寺が廃寺になったという俗説も広まっています。しかし、僧侶と大奥女中の密通が行われたのは、日啓が住職を務めていた智泉院であり、感応寺ではありません（智泉院事件）。感応寺の廃寺が決定した日が、智泉院事件の関係者が処罰された日と重なったため、これらの事件が混同されたと考えられています。

しかしながら、感応寺が徳川将軍家の私的な祈祷所として大奥女中たちの贔屓を受けていたことは確かです。1834年（天保5年）には、感応寺が「中野氏女性（お美代）」に対して「御取持」の報恩として、紺紙金泥法華経と日顗上人筆の御本尊を進呈しており、専行院が将軍家との仲介をしていた可能性も否定できません。

まとめ

感応寺は、その短い歴史の中で、様々な出来事に翻弄され、最終的には廃寺という悲劇的な結末を迎えました。しかし、その跡地からは礎石が発見され、その存在は歴史の中にしっかりと刻まれています。また、感応寺に関する様々な誤伝は、歴史を多角的に捉える上で重要な教訓を与えてくれます。

関連項目

* 天王寺 (台東区)

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