慈雲寺 (甲州市)

慈雲寺（じうんじ）

慈雲寺は、山梨県甲州市塩山中萩原に位置する臨済宗妙心寺派の寺院です。天龍山と号し、本尊は聖観世音菩薩を祀っています。甲斐百八霊場の10番札所としても知られています。

歴史

寺伝によれば、南北朝時代の暦応年間（1338年 - 1342年）に、夢窓疎石によって開山されたと伝えられています。夢窓疎石は、甲斐の平塩寺（市川三郷町）で修行を積んだ臨済宗の僧侶で、甲斐国内には他にも浄居寺（山梨市）や恵林寺（甲州市）などを創建しています。

江戸時代末期には、当時の住職であった白巖和尚が寺内に私塾を開き、近隣の子どもたちの教育に尽力しました。明治時代に入ると、1887年（明治20年）には本堂内に学校が開かれ、1907年（明治40年）には私立山梨里仁学校として発展し、その後、市内の千野地区に移転して太平洋戦争終了時まで存続しました。

この寺子屋には、樋口一葉の父である樋口則義も学んでおり、地域住民にとっては寺院であると同時に教育施設としての役割も担っていました。明治から昭和にかけて、地域の人材育成に大きく貢献したのです。

文化財

境内には、山梨県指定天然記念物のイトザクラをはじめ、甲州市指定文化財の絵画などが存在します。

山梨県指定天然記念物
慈雲寺のイトザクラ
甲州市指定文化財（絵画）
絹本着色十六善神像図 1幅
紙本着色渡唐天神像図 1幅

境内

慈雲寺のイトザクラ

境内には、推定樹齢300年を超えるイトザクラがあり、その姿は圧巻です。1971年（昭和46年）に塩山市（現：甲州市）の天然記念物に指定され、2005年（平成17年）には山梨県の天然記念物となりました。

幹の目通りは3.2メートル、樹高は15.0メートル、枝張りは東西20メートル、南北18メートルにも及ぶ巨木です。1691年（元禄4年）の堂宇再建時に植えられたものと伝えられており、樹齢はおよそ320年と推定されています。

本堂を覆うように咲き誇る姿は美しく、多くのカメラマンがその瞬間を捉えようと訪れます。イトザクラは、エドヒガン系の栽培品種であるシダレザクラの一種で、大きく枝が枝垂れるのが特徴です。花の色は薄紅色から濃紅色まで個体差がありますが、慈雲寺のイトザクラは特に花色が濃く、枝ぶりも雄大で、枝垂れた枝の先端が地面にまで達しているほどです。

例年4月上旬が開花時期で、周辺の桃畑の桃の花とほぼ同時期に咲き誇り、多くの観光客で賑わいます。

樋口一葉女史文学碑

慈雲寺のある中萩原地区は、かつて大藤村という村でした。明治時代の女流作家、樋口一葉の両親である樋口氏則と古屋瀧子（多喜）は、この村の出身であり、父の氏則は慈雲寺の私塾で学んでいます。

一葉自身は東京で生まれ、生涯で一度も塩山を訪れることはありませんでしたが、彼女の作品には両親から聞いたであろう故郷塩山の地名がたびたび登場します。

一葉の没後26年経った1922年（大正11年）、彼女を偲んで慈雲寺の境内に一葉女史碑が建立されました。題額は東宮御学所御用掛の杉浦重剛、撰文は芸術院会員の幸田露伴、書は宮中御歌所出仕の岡山高蔭によるものです。

石碑の裏側には、建立に賛助した佐藤春夫、田山花袋、坪内逍遥、森鷗外、与謝野鉄幹、与謝野晶子など、日本を代表する近代文学者たちの名前が刻まれています。

周辺施設

雲峰寺
竹森のザゼンソウ群
甘草屋敷
向嶽寺
恵林寺

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