慣性上段ロケット

慣性上段ロケット（IUS）とは

慣性上段ロケット（Inertial Upper Stage: IUS）は、アメリカ空軍によって開発された二段式の固体ロケットエンジンです。元々はInterim Upper Stageとして知られていました。主に、タイタンIIIロケット、タイタン34D、タイタンIV、そしてスペースシャトルといった大型ロケットのペイロードとして、重くて大きな衛星を軌道に投入する目的で開発されました。

開発の背景

1969年から1974年にかけてのスペースシャトル開発期において、NASAは、米空軍の支援を受けながら、スペースシャトルだけでなくタイタンIIIロケットにも使用できる上段ロケットを求めていました。当時、タイタンIIIロケットは、サターンV型ロケットの派生型であるサターンINT-21以来、アメリカ軍で最も強力な無人ロケットとなる予定でした。

これは、スペースシャトルの開発遅延に対する保険としての側面もありましたが、NASAは惑星探査ミッションにセントール上段ロケットの別バージョンを検討していました。一方、米空軍は、タイタンIIIで使用されていたトランステージと呼ばれるハイパーゴリック推進剤仕様の上段ロケットを好み、セントールは必要ないと考えていました。

固体燃料のIUSは、トランステージとセントールの間を埋める存在として開発されました。トランステージは、NASAの多くのペイロードを打ち上げるには非力で、セントールは、すべての軍事衛星や偵察衛星を打ち上げるには過剰な能力を持っていました。IUSは、スペースシャトルまたはタイタン34Dを用いて、国防総省や国家安全保障局の大型偵察衛星を適切な軌道に投入するのに十分な能力を持ち、また、NASAの通信衛星（TDRSなど）を静止軌道に投入する能力も備えていました。

IUSの構造と機能

IUSは二段式のロケットで、タイタンロケットによる打ち上げ、またはスペースシャトルの貨物室に搭載されて打ち上げられます。

タイタンロケットによる打ち上げでは、ロケットの一段目と二段目、そして補助固体ブースターが、IUSとペイロードを低軌道まで運びます。その後、IUSはタイタンロケットと分離し、第一段目を点火してより高高度の楕円軌道に移行します。

スペースシャトルによる打ち上げでは、シャトルの貨物室が開かれ、IUSとペイロードが持ち上げられて放出されます。シャトルが安全な距離まで離れた後、第一段目を点火し、タイタンロケットと同様にトランスファ軌道に入ります。遠地点に近づくと第一段目と段間部を切り離し、遠地点で第二段目を点火して軌道を円形にし、衛星を分離します。その後、高度調整ジェットを用いて逆噴射を行い、ペイロードとの衝突を避けます。

また、IUSは静止軌道への衛星投入だけでなく、惑星探査機の加速にも使用されました。この場合、第一段目が燃焼後すぐに第二段目を点火し、探査機が地球軌道から脱出するのに十分な速度を与えました。

IUSが使用されたミッション

2007年現在、多数のミッションでIUSが使用され、その多くはスペースシャトルからの打ち上げです。1986年のチャレンジャー号事故後、スペースシャトルでのセントール上段ロケットの使用が禁止されたため、IUSの利用が増加しました。

現在の状況

現在、IUSよりも使いやすく効率的なセントール上段が、新型のアトラスVロケットを含むアトラスロケットで使用されているため、IUSは「準退役」状態となっています。しかしながら、将来的にデルタIVロケットの強化や、アレスI、アレスVのようなシャトル派生型ロケットの上段として使われる可能性も残されています。

しかし、IUSの生産は非常に高額になるため、現存する機体での打ち上げが最後となる可能性が高いです。

参考文献

The Cape, Chapter 2, Section 6, TITAN 34D Military Space Operations and Facilities at the Cape
Titan IV Inertial Upper Stage (IUS)
SPACE TRANSPORTATION SYSTEM PAYLOADS

関連項目

打ち上げ機
タイタン (ロケット)
スペースシャトル
タイタン 34D
タイタン IV
軌道
人工衛星の軌道
人工衛星の軌道要素
静止トランスファ軌道
静止軌道
近点・遠点
* アポジキックモーター

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