タイタンIV

タイタンIVは、アメリカ合衆国が宇宙開発における重要な一時代を担った使い捨て型ロケット（ELV）です。特に軍事衛星の打ち上げ手段として、1989年から2005年までアメリカ空軍によって運用されました。タイタンロケットシリーズの集大成ともいえる本機は、当時のアメリカ空軍が保有する無人ロケットとしては最大規模を誇りました。

開発の背景

タイタンロケットシリーズの起源は、1950年代に開発された大陸間弾道ミサイル（ICBM）に遡ります。当初のタイタンIは液体酸素とケロシンを推進剤としていましたが、続くタイタンIIでは、より高性能で貯蔵性の高い液体燃料（エアロジン-50と四酸化二窒素）が採用されました。この推進剤は、接触するだけで燃焼する自己着火性を持ち、常温での保管が可能であるため、即応性に優れていました。これらのICBMは、その後、宇宙ロケットとして転用され、人工衛星や宇宙探査機の打ち上げに用いられるようになります。

タイタンIVの開発は、1986年1月に発生したスペースシャトル・チャレンジャー号の事故が大きな契機となりました。この事故により、アメリカ合衆国の人工衛星、特に大型の軍事衛星を軌道に投入する能力に深刻な影響が出ました。これに対応するため、スペースシャトルと同等またはそれ以上の大型ペイロードを打ち上げ可能な信頼性の高い使い捨て型ロケットとして、タイタンIVが開発・導入されることになったのです。

構造と特徴

タイタンIVは、その巨大なペイロード能力を実現するために、強力な推進システムを備えていました。基本構成は、側面に装着された2基の大型固体燃料ロケットブースターと、その中央に配置された2段式の液体燃料ロケットからなります。液体燃料ロケットには、タイタンII以来用いられてきたエアロジン-50（燃料）と四酸化二窒素（酸化剤）の組み合わせが使用されました。これらの推進剤は自己着火性を持つため、複雑な点火装置が不要で、長期間にわたって発射待機状態を維持できる利点がありましたが、同時に非常に毒性が強いという取り扱いの難しさもありました。

タイタンIVの大きな特徴の一つは、ペイロードや投入軌道の要求に応じて、オプションの上段ロケットを選択できたことです。主にセントールロケットやIUS（Inertial Upper Stage）が用いられ、これにより低軌道から静止軌道、さらには惑星探査軌道まで、様々なミッションに対応することが可能でした。

打ち上げは、フロリダ州のケープカナベラル空軍基地（射場SLC-40, SLC-41）と、カリフォルニア州のヴァンデンバーグ空軍基地（射場SLC-4E）という、アメリカ東西両岸の主要な宇宙基地から行われました。これにより、軌道傾斜角やミッションの性質に応じて最適な射場を選択することができました。

運用と実績

タイタンIVは、その運用期間中に計39回の打ち上げを実施し、うち35回を成功させました。初期の型式であるタイタンIVAは1998年 8月に最後の打ち上げを行い、1997年2月からは改良型のタイタンIVBが導入されました。タイタンIVBは、誘導装置やフライト・ターミネーション・システム、地上設備などが更新され、特に固体燃料ロケットの推力が約25%向上するなど、性能が強化されています。

高コストが課題となり、タイタンIVは2005年にその役目を終え、退役しました。アメリカ空軍が推進する発展型使い捨てロケット計画（EELV）に基づき開発されたアトラスVやデルタIVといった新型ロケットにその座を譲りました。最終的な打ち上げは、2005年 4月29日にケープカナベラルから、そして同年10月19日にヴァンデンバーグから行われました。特に、1997年10月15日には、タイタンIVBがNASAの重要な科学ミッションであるカッシーニ土星探査機を宇宙へと送り出しています。

主要諸元（代表的な仕様）

目的: 人工衛星等の軌道投入
製造: ロッキード・マーティンアストロノーティクス（旧グレン・マーティン社より発展）
エンジン構成:
第0段: 固体燃料補助ロケット 2基
第1段: LR-87液体燃料ロケットエンジン
第2段: LR-91液体燃料ロケットエンジン
上段（オプション）: セントールまたは IUS
誘導装置: ハネウェル製リングレーザージャイロスコープ誘導装置
最大全長: 約62.17 m (204 feet)
最大離床重量: 約1,000,000 kg (220万ポンド)
代表的な打ち上げ能力:
低軌道 (LEO): 最大約21,680 kg (47,800 ポンド)
静止軌道 (GTO): ケープカナベラルよりセントール使用時最大約5,760 kg (12,700 ポンド)
運用期間: 1989年 - 2005年
主な射場: ケープカナベラル空軍基地 (SLC-40, SLC-41), ヴァンデンバーグ空軍基地 (SLC-4E)
開発・製造費用: 仕様によるが約2億5千万〜3億5千万ドル

タイタンIVは、冷戦終結前後の厳しい国際情勢下において、アメリカの宇宙におけるプレゼンスを維持し、重要な軍事・科学ミッションを支えた、巨大かつ高性能なロケットでした。

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