憲聖慈烈皇后

憲聖慈烈皇后：激動の時代を支えた女性

憲聖慈烈皇后（けんせいじれつこうごう）は、南宋の高宗の2番目の皇后であり、呉氏という姓を持ちます。彼女の生涯は、南宋初期の激動の時代を色濃く反映しています。

生い立ちと高宗との出会い

開封府出身の呉氏は、珠宝商人の呉近と妻の張氏の三女として生まれました。幼い頃から「侍康」という夢のお告げがあったと伝えられています。彼女は、康王趙構（後の高宗）の側女として仕えることになります。

靖康の変の際、趙構は使節として開封を離れていたため、金軍による連行を免れました。呉氏もまた、趙構に付き従っていたため難を逃れます。高宗が即位すると、呉氏は和義郡夫人に封ぜられました。容姿は平凡であったものの、読書を好み、武術を会得していた呉氏は、金兵が攻めてきた際には船酔いに負けず先頭に立ったと伝えられています。このような気概が買われ、日増しに高宗からの寵遇を受けるようになりました。高宗は即位前後の数年間を流亡の中で過ごしましたが、呉氏は常に戎服を着て帯刀し、衛士のように高宗に付き添ったとされています。

皇后としての歩み

建炎4年（1130年）に才人に封ぜられ、その後婉儀に進んだ呉氏は、紹興12年（1142年）4月には貴妃に封ぜられました。同年8月、金と南宋の間で紹興の和議が成立し、高宗の母である韋氏が高宗のもとに帰還します。また、この際に呉氏は、康王時代からの正妻で金に抑留されたまま皇后に立てられていた邢氏の死を知らされます。翌紹興13年（1143年）閏4月、呉氏はついに皇后の座に上り詰めました。

太上皇后、そして太皇太后として

紹興32年（1162年）、高宗は、皇后呉氏が愛育した2人目の養子の趙伯玖（趙璩）を差し置いて、養子の中でもっとも才幹のある趙眘（孝宗）に譲位し、自らは太上皇を称しました。呉氏は太上皇后として敬われ、徳寿宮に移り住みます。淳熙14年（1187年）に高宗が崩御すると、淳熙16年（1189年）には孝宗も子の趙惇（光宗）に譲位して太上皇となり、呉氏は寿聖太皇太后と改号されました。

孝宗が崩ずると、父と反目していた光宗が病と称して喪を執り行わなかったため、群臣らの憤りを買いました。宰相の留正が朝廷を去る中、80歳の呉氏は、太宗の末裔で知枢密院事の趙汝愚の建議を容れ、太皇太后として垂簾聴政を行い、光宗の廃位を宣布し、光宗の子である趙拡（寧宗）を擁立しました。その際、柱にしがみついて逃げ回る曾孫を叱責し、自ら帝服を着せたと伝えられています。翌日、政権は寧宗に移管されました。寧宗の下で権力を振るった韓侂冑は、寧宗の皇后韓氏と同族であり、また呉氏の妹の子でもありました。

晩年と崩御

慶元元年（1195年）、寿聖隆慈備福光祐太皇太后と改号され、重華宮に移り住んだ呉氏は、慶元3年11月2日（1197年12月12日）、83歳でその生涯を閉じました。「憲聖慈烈」と諡され、高宗の永思陵に合葬されました。

憲聖慈烈皇后は、激動の時代を生き抜き、皇后として、そして太皇太后として南宋の政治に大きな影響を与えた女性でした。彼女の生涯は、南宋の歴史を語る上で欠かすことのできない重要な要素と言えるでしょう。

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