成層圏突然昇温

成層圏突然昇温：寒気と温暖化の不思議な関係

成層圏突然昇温（SSW）は、穏やかな気温変化が特徴的な成層圏において、短期間で劇的な気温上昇が観測される現象です。北半球では、秋から春の寒候期に発生し、数日間で20ケルビン（K）程度の気温上昇が見られますが、場合によっては50Kを超える急激な上昇も記録されています。上昇後、気温はゆっくりと元に戻るまで1～2ヶ月程度を要します。

定義と分類

世界気象機関（WMO）の定義によれば、SSWとは、成層圏で1週間以内に25K以上の気温上昇が観測され、10ヘクトパスカル（hPa）以下の高度で、緯度60度以上の高緯度に向かって気温上昇域が移動する現象です。さらに、この現象に伴い、通常西風である緯度60度以上の循環が東風に反転するものを「大昇温」、反転しないものを「小昇温」と分類しています。

SSWは、大気中の波動パターンであるプラネタリー波の影響を受けます。波数2型では、東西方向に2つの高低気圧が形成され、波数1型では1つの高低気圧が形成されます。特に、波数1型でアリューシャン低気圧の異常発達に伴い、アリューシャン高気圧も発達するケースは「カナディアン昇温」と呼ばれます。3月頃の北半球、11月頃の南半球における大昇温は「最終昇温」と呼ばれ、夏まで高温高圧の状態が持続することがあります。

発見の歴史

SSWの発見は、1952年にベルリン自由大学のシェルハークによってなされました。彼は、ラジオゾンデ観測データから、高度30キロメートル付近の気温が一日で-50℃から-12℃まで上昇したことを確認しました。この驚くべき気温変化は、1週間以上続いたことから、SSWという新たな気象現象の存在が明らかになりました。当時、ヨーロッパ各地の気象資料を元に天気図を作成していた同研究室の地道な作業が、この発見に繋がったのです。

メカニズム

成層圏では、冬期の極地は日射が届かず冷却されます。ブリューワー・ドブソン循環によってこの冷却の一部は相殺されますが、それでも冷却が優勢となり、極域は低温低圧の西風循環となります。そこにプラネタリー波が伝播し、西風が蛇行すると、空気塊が極域に移動し、断熱加熱によって気温が上昇、SSWが発生すると考えられています。その後、気温はゆっくりと元に戻ります。一方、中間圏では、SSWと同時に上昇流による断熱冷却で気温が低下します。南半球でSSWがまれであるのは、北半球に比べてプラネタリー波の振幅が小さいことが原因と考えられます。

テレコネクション

SSWの発生頻度は、成層圏準2年周期振動（QBO）や太陽活動の11年周期、赤道域のエルニーニョ南方振動（ENSO）などとも関連していると考えられています。特に、エルニーニョ現象時には、東西波数1のプラネタリー波の振幅が大きくなり、SSWの発生頻度が増加するとされていますが、この点については、研究者間で意見の一致は得られていません。

まとめ

SSWは、成層圏における急激な気温上昇現象であり、大気波動の伝播や極域での大気循環の変化がそのメカニズムに深く関わっています。その発生頻度や規模は、様々な気象現象と関連しており、地球規模の気候変動の理解に重要な役割を果たすと考えられています。今後の研究により、SSWの予測精度向上や、気候変動への影響解明が期待されます。

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