成田正右衛門

成田正右衛門：薩摩藩の砲術改革を牽引した人物

成田正右衛門（なりた しょうえもん）は、江戸時代後期の薩摩藩に仕えた藩士であり、卓越した砲術家として知られています。享和3年（1803年）に生まれ、元治元年12月8日（1865年1月5日）に62歳で生涯を閉じました。本名は正之、改名前は鳥居平七と称しました。

砲術家としての歩み

正右衛門は、兄の鳥居平八とともに、まず荻野流と坂元流の砲術を学びました。その後、西洋式砲術を学ぶため、長崎に赴き、高島秋帆に師事しました。このことが、薩摩藩の砲術改革において重要な転換点となりました。

モリソン号事件と西洋式砲術導入

天保8年（1837年）、モリソン号が山川港に寄港した際、正右衛門は警備の任にあたりました。しかし、従来の砲術では西洋の軍艦に全く歯が立たないことを痛感しました。この経験が、薩摩藩が西洋式砲術を導入する契機となりました。

翌天保9年（1838年）、正右衛門は兄と共に長崎で高島秋帆に師事し、西洋式砲術を深く学びました。天保12年（1841年）には再び長崎へ派遣され、高島から教えを受けましたが、この時、兄の平八が客死するという悲劇に見舞われました。平八の死後、正右衛門は家督を継ぎ、薩摩藩の砲術師範となりました。

高島秋帆との関係と藩への貢献

高島秋帆が疑獄事件に巻き込まれた際、正右衛門は連座を避けるため、名を成田正右衛門と改めました。また、高島流砲術を「御流儀」と改称しました。この出来事からも、彼が藩の命運を背負っていたことが窺えます。

弘化年間以降、欧米の軍艦が頻繁に日本周辺に現れるようになり、西洋式砲術の重要性はますます高まりました。正右衛門は多くの弟子を育成し、薩摩藩の軍事力強化に大きく貢献しました。彼の温厚な人柄は多くの人々に慕われ、弟子たちは彼の指導のもとで大成を遂げました。また、彼はその功績により、後に物奉行にまで昇進しました。

砲術師範としての活躍

正右衛門は、モリソン号事件の際、異国船打払令に従い、兄や門人とともに砲撃を行いましたが、その効果は薄く、従来の砲術の限界を痛感しました。その後、西洋式砲術を学んだ彼は、薩摩藩の砲術改革を主導し、その結果、藩の軍備は大きく強化されました。

天保12年（1841年）には、高島秋帆から高島流砲術の奥義を授かり、オランダ製の小銃100挺を購入して帰藩しました。彼は薩摩藩の西洋流砲術の師範として、銃砲隊に大砲操練を行いました。

また、薩摩藩は高島秋帆の仲介で燧発銃を購入し、モルチール砲や野戦砲を鋳造しました。藩主の島津斉興も大砲射撃演習を検閲し、野戦教練も行わせました。これらの取り組みにより、薩摩藩の軍備は西洋式へと大きく変貌を遂げました。正右衛門はその中心的な役割を担いました。

弘化3年（1846年）には、鋳製方が設置された際、掛の一人に任じられ、青銅砲やゲベール銃の製造に携わりました。同年に行われた発火演習には、後の藩主となる島津斉彬が臨検し、正右衛門に21ヶ条の質問をしました。この質問は非常に鋭く、正右衛門は恐縮したと言われています。

晩年と追贈

元治元年12月8日、正右衛門は病により62歳で亡くなりました。彼の死後、その功績を称え、大正13年（1924年）2月に正五位が追贈されました。

成田正右衛門は、薩摩藩の砲術改革において、その先駆的な役割を果たした人物として、後世に語り継がれています。彼の功績は、幕末の動乱期における薩摩藩の軍事力強化に大きく貢献し、日本の歴史を語る上で欠かせない存在です。

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