房錦勝比古

昭和期に活躍した大相撲力士、房錦 勝比古（ふさにしき かつひこ、本名：松崎 正勝）。1936年（昭和11年）1月3日、東京府東京市（現在の東京都大田区）に生まれ、千葉県市川市出身。若松部屋（一時期は西岩部屋）に所属し、最高位は西関脇にまで昇進しました。現役時代の体格は身長176cm、体重118kg。右四つからの寄り、押し、いなしを得意とし、その体格と相撲ぶりから「褐色の弾丸」の異名で呼ばれました。

房錦は、実父が若松部屋所属の行司、7代式守錦太夫（後に9代式守与太夫、さらに立行司・式守伊之助を務める）であった縁により、1952年（昭和27年）1月に若松部屋に入門し、同年1月場所で初土俵を踏みました。当初の四股名は「小櫻」。1954年（昭和29年）1月場所より出身地の千葉県（旧安房国）に由来する「房錦」に改名しました。一度「総錦」としたものの、成績が振るわず再び「房錦」に戻しています。入門後まもなく、師匠の変更に伴い部屋名が一時的に「西岩部屋」となった時期もありました。

1957年（昭和32年）5月場所で21歳で新入幕。この場所で大いに活躍し、14日目まで11勝3敗と優勝争いに加わりました。千秋楽で敗れ優勝は逃しましたが、新入幕ながらの活躍が評価され、敢闘賞を受賞しました。その後も幕内上位で健闘し、横綱・鏡里から初の金星を獲得しています。

特に印象深いのは、横綱・千代の山からの金星です。1958年（昭和33年）9月場所と1959年（昭和34年）1月場所で、負け越しながらも千代の山から金星を奪っています。後者の勝利は、千代の山がこの場所を最後に引退したため、房錦にとって忘れられない一番となりました。1959年（昭和34年）5月場所で勝ち越し、続く7月場所では関脇に昇進。ここでも勝ち越しを決め、この頃から1961年（昭和36年）にかけて全盛期を迎え、三役や幕内上位で活躍しました。

全盛期には、後に横綱となる大鵬や柏戸を度々苦しめました。両者との対戦成績はそれぞれ5勝6敗とほぼ互角であり、殊勲の星である撫で斬りも2回記録しています。関脇以下の力士で、この二人にこれほど善戦した例は他に少なく、「柏鵬キラー」としてその名を広く知られることとなりました。一方、当時の二大横綱であった栃錦には9戦全敗、若乃花には1勝13敗と、上位横綱には苦戦を強いられましたが、若乃花からの唯一の勝利は豪快なものでした。色黒でがっしりとした体格から繰り出す、体を丸めて低く突進する押し相撲は、異名である「褐色の弾丸」そのものでした。この時期、同部屋の関脇・岩風とともに、若松部屋の力士として幕内上位を活気づけました。

しかし、晩年は膝と腰の故障が悪化し、徐々に番付を落としました。1965年（昭和40年）9月場所後には、新入幕から50場所連続で維持した幕内の地位を離れ、十両に陥落。体力の衰えもあり、1967年（昭和42年）1月場所を最後に現役を引退しました。通算成績は514勝533敗、幕内在位は50場所。三役には5場所在位し、三賞は5回受賞、金星は6個獲得しています。

引退後は年寄・山響を襲名し、若松部屋付きの親方として後進の指導にあたりました。当時の若松親方の娘と結婚し、部屋の婿養子となっていたため、1979年（昭和54年）8月には師匠の停年退職に伴い、若松部屋を継承しました。しかし、糖尿病が悪化し、協会での職務が困難になったため、1990年（平成2年）3月場所限りで親方を廃業しました。若松部屋は弟子であった山響親方（元大関・朝潮）に譲られ、師匠としては関取を一人も育てることができませんでした。

廃業後は療養生活を送っていましたが、1993年（平成5年）7月21日に出血性胃潰瘍のため57歳で死去しました。墓所は千葉県内ですが、場所は公表されていません。

房錦にまつわるエピソードとして、稽古量が少なかったと伝えられることがあります。しかし、上位に特に強かったことから、もし人並み以上に稽古に励んでいれば大関に昇進できたのではないか、という見方もあります。また、1957年5月場所では、実父である式守錦太夫の軍配を受ける取組があり、父が勝ち名乗りを与えた際の様子は当時の話題となり、後に『土俵物語』として映画化もされています。長男はプロレス実況者として知られる松崎年男氏。酒豪としても知られ、ある際には1日に日本酒を1斗も飲んだという逸話も残っています。場所中の過ごし方としては、稽古後は人とあまり会わず、一人になる時間を大切にしていたと語っています。

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