扇町 (川崎市)

扇町（おうぎまち）

神奈川県川崎市川崎区に属する扇町は、その大部分が東京湾の埋立地で構成される町名です。行政区画上は丁目の設定がない単独町名であり、1965年7月1日に住居表示が実施されました。町の面積は約1.82平方キロメートル。郵便番号は210-0867で、集配は川崎港郵便局が担当しています。

地理

扇町は川崎区の南東部に位置し、周囲を運河によって隔てられた独特の地形をしています。町の境界は、北端で浅野運河と南渡田運河を挟んで浅野町および南渡田町と、東端は池上運河を挟んで水江町と、南端は京浜運河を挟んで東扇島と、西端は田辺運河を挟んで白石町および大川町に接しています。町域全体が工業専用地域に指定されており、JFEスチール東日本製鉄所や昭和電工といった日本を代表するような大規模工場が集積し、京浜工業地帯の中核を担っています。広大な工業敷地が特徴ですが、JR鶴見線の沿線にはわずかに住宅も見られます。

歴史

現在の扇町の地は、江戸時代に作られた渡田村の地先にある若尾新田と、そのさらに沖合に広がる海域でした。明治末期から大正時代に入り、実業家・浅野総一郎が中心となり、東京湾埋立会社（現在の東亜建設工業の前身の一つ）によって大規模な埋立事業が着手されました。埋立が始まったのは1913年（大正2年）のことです。埋立は順調に進み、1928年（昭和3年）には浅野総一郎による初期の埋立が完了し、「扇町」という町名が誕生しました。この頃には、三井埠頭が操業を開始し、産業基盤が築かれ始めます。また、物流と人流を支えるため、浅野財閥系列の鶴見臨港鉄道（現在のJR鶴見線）が扇町駅まで開通したのもこの年です。1931年（昭和6年）には鶴見臨港鉄道に昭和駅が開業し、昭和石油（現在の出光興産）や昭和肥料（現在の昭和電工）などが相次いで操業を開始しました。その後も工業施設の集積は続き、1935年（昭和10年）には日満倉庫川崎埠頭（現在の東洋埠頭川崎支店）、1936年（昭和11年）には日本鋼管扇町工場（現在のJFEスチール東日本製鉄所）が開業し、重工業の中心地としての地位を確立しました。埋立事業自体は戦後も継続され、最終的な埋立が完了したのは1963年（昭和38年）のことです。第二次世界大戦末期の1945年（昭和20年）には、アメリカ軍による激しい空襲に見舞われ、町は壊滅的な被害を受けました。多くの命が失われ、東京俘虜収容所川崎扇町分所の収容者も犠牲となりました。戦後復興を経て、1965年（昭和40年）に住居表示が実施され、現在の町域が確定しました。1972年（昭和47年）に川崎市が政令指定都市に移行した際、扇町は同市の川崎区の一部となりました。近年では、2011年（平成23年）に東亜石油扇町工場が閉鎖されるなど、産業施設の配置にも変化が生じています。

地名の由来

町名の「扇町」は、この地域の開発に深く関わった浅野総一郎の実家である浅野家の家紋に由来すると伝えられています。浅野家の家紋が「扇」であったことから、新しい町の名に採用されたとされています。

交通

扇町への主な交通手段は以下の通りです。

鉄道: 町域内にはJR鶴見線が通り、昭和駅と終点である扇町駅の二つの駅が設置されています。鶴見線は、元々は浅野財閥系の鶴見臨港鉄道として建設・運営されていた産業鉄道でした。
道路: 神奈川県道101号扇町川崎停車場線が、扇町と川崎駅を結ぶ幹線道路となっています。また、JFEスチール東日本製鉄所の敷地内には、対岸との間を結ぶ「新大扇橋」が架かっています。この橋は60トン級のトレーラーにも耐えうる頑丈な構造を持ち、日本国内では珍しい稼働中の跳ね橋として、「かながわの橋100選」にも選定されています。ただし、この橋は工場関係者以外の一般の通行はできません。
路線バス: 川崎駅との間を結ぶ路線バスが運行されており、川崎市交通局による川13系統と、川崎鶴見臨港バスによる川22系統が利用可能です。
港湾: 三井埠頭や東洋埠頭川崎支店といった、主に産業物流に用いられる私設の港湾施設が点在し、海の玄関口としての機能も担っています。

主な施設

扇町には、日本の重工業を支える重要な施設が多く立地しています。

JFEスチール東日本製鉄所 京浜地区（かつての日本鋼管京浜製鉄所）
昭和電工 川崎工場（工場内には、国の登録有形文化財に登録されている建物があります）
JR東日本 川崎火力発電所
ENEOS 川崎事業所
* 川崎天然ガス発電所（ENEOS川崎事業所内にあります）

これらの施設群が、扇町の産業景観を形成する主要な要素となっています。

もう一度検索