才賀藤吉

才賀藤吉：地方電化を牽引した「電気王」の生涯と功績

才賀藤吉（さいが とうきち）は、1870年（明治3年）に大阪で生まれ、1915年（大正4年）に44歳で没した実業家であり、政治家（代議士）です。明治末期から大正初期にかけて、各地の電気会社や鉄道会社の設立・経営に深く関わり、「電気王」と称されました。彼の事業は、地方の電化と交通網の整備に大きく貢献しましたが、その急拡大の末に破綻を迎えました。

生い立ちと才賀電機商会創立

大阪の実業家の丁稚奉公から身を立て、その支援で共立学校（現・開成高等学校）に進学。卒業後、大阪電灯株式会社に入社し電気事業の基礎を学びました。1893年に退社後、東京の三吉電機工場へ。京都電気鉄道（後の京都市電）の建設工事で現場監督を務めたことが転機となり、1896年に京都で才賀電機商会を設立しました。

才賀電機商会の躍進と事業展開

才賀電機商会は、紡績工場向けの照明電気工事からスタートし、次第に地方の電気会社や鉄道会社設立に関与するようになります。当時、地方では電気や鉄道の需要が高まっていましたが、ノウハウや人材が不足していました。才賀は、そこに目をつけ、自らが技術指導、資材調達、資金提供を行うことで、地方の電気・鉄道事業を支援しました。

彼のビジネスモデルは、才賀電機商会が工事を請け負い、資材を調達し、技術者を派遣して技術指導を行うというものでした。資金が不足している場合は、自ら資金を提供することで事業を推進しました。この手法により、才賀は短期間のうちに数多くの会社を設立し、その経営責任者として辣腕を振るいました。関係した企業は100社から150社に及ぶとされています。

彼が関与した主な企業は以下の通りです（破綻時に名前が挙がった企業の一部）。

電気会社: 伊予水力電気（愛媛）、七尾電気（石川）、尾鷲電気（三重）、中国電気（広島）、大分水力電気（大分）、出雲電気（島根）、和歌山水力電気（和歌山）、日向水力電気（宮崎）、新潟水力電気（新潟）、沖縄電気（沖縄）など多数。
鉄道会社: 伊予鉄道（愛媛）、岡崎電気軌道（愛知）、美濃電気軌道（岐阜）、王子電気軌道（東京）、松阪軽便鉄道（三重）など多数。

また、1908年には伊予鉄道社長の井上要の後継として衆議院議員に当選し、1912年にも再選されるなど、政界でも活躍しました。

才賀電機商会の破綻と晩年

才賀電機商会は、設立した鉄道会社などから工事代金を株式で受け取り、それを担保に金融機関から融資を受けて事業を拡大するという手法を取りました。しかし、経理は不透明で、金融機関への営業報告も怠っていました。1912年、三井の不正手形事件をきっかけに金融機関が手形割引に慎重になる中、明治天皇の大喪の礼による銀行の臨時休業が追い打ちとなり、資金繰りが悪化。9月16日に不渡りを出し、経営が行き詰まりました。

才賀は、北浜銀行の岩下清周や日本生命の片岡直温らに救済を求めましたが、最終的には日本興業株式会社が設立され再建が試みられるも、日本生命の撤退、北浜銀行の破綻などにより、救済は実現しませんでした。

失意のうちに関係会社の代表を退いた才賀は、日本興業の一社員として勤務しましたが、1915年に病のため44歳の若さで亡くなりました。かつて経営に関わった宮崎鉄道からは、弔慰金が支給されています。

評価と教訓

才賀藤吉は、明治末期から大正初期にかけて、地方の電化と鉄道網の整備に大きく貢献した功績は評価されるべきでしょう。しかし、その急拡大の過程で、杜撰な経営体質やリスク管理の甘さが露呈し、最終的には破綻を招きました。彼の生涯は、地方経済の発展に貢献した一方で、企業経営におけるリスク管理の重要性を示唆する教訓として、後世に語り継がれています。

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