打瀬船

打瀬船（うたせぶね）とは

打瀬船とは、日本の伝統的な漁法である打瀬網漁（帆打瀬）に用いられた帆船です。風の力を利用して船を横に滑らせながら網を引く独特な操船方法が特徴で、明治時代から昭和時代にかけて、全国各地の漁港や海、湖で広く見られました。

概要

打瀬船は、江戸時代の海運を担った弁才船の技術を応用し、逆風帆走能力を高めたことで、瀬戸内海や大阪湾、伊勢湾などから全国へと広まりました。幕末以前の打瀬船は、1本の帆柱に横帆を張り、船首に弥帆を張るシンプルな構造でしたが、明治初期には西洋帆船の技術が導入され、帆柱が2本になり縦帆（ガフセイル等）が採用されました。さらに、伸子帆（木綿製のジャンク帆）の登場により、帆の伸縮が容易になり、強風下での漁にも対応できるようになりました。

主な構成要素

木造帆船: 江戸時代から昭和中期まで、打瀬船は木造でした。時代とともに、和船構造から和洋折衷の構造、そして動力機関を搭載した機帆船へと進化しました。
舵: 弁才船と同様に、横風や逆風帆走時の横流れを抑えるため大型化され、浅瀬での航行時には角度を調整できる構造になっていました。
伝馬船: 大型の打瀬船には、人や荷物の積み下ろしに使用する伝馬船が積載され、轆轤（ろくろ）で上げ下ろしが行われました。
轆轤: 袋網に入った大量の魚介を人力で引き上げるために使用され、伝馬船や錨の上げ下ろしにも利用されました。
伸子帆: 強風下での帆打瀬漁で、帆の展開を調整するために用いられた伸縮自在な帆です。竹の支え（バテン）が入っており、明治時代後期に普及しました。
遣り出し: 船首と船尾に突き出した棒で、袋網の引綱を取り付けたり、補助帆を張る際の支えとして使用されました。
ズンド水押: 愛知県型の打瀬船に見られる特徴で、船首が垂直に近い角度で立ち上がり、横風時の横流れを抑える役割を果たしました。
のめり船: 千葉県の浦安で使用された打瀬船で、船首が低くのめり込んでおり、風による横流れを防ぐ構造になっていました。
焼玉エンジン: 昭和初期から、打瀬船の動力機関として焼玉エンジンや石油発動機が導入され、戦後にはディーゼルエンジンも使用されるようになりました。

他の漁法との摩擦

打瀬網漁は、その高い漁獲能力から他の漁法との間で摩擦が生じ、愛知県では操業の排撃や紛争が起こり、一時的に禁止令が出たこともありました。

帆の進化

江戸時代の打瀬船の帆は、1本の帆柱に横帆を張るシンプルな構造でした。明治時代には、西洋帆船の影響を受け、帆柱が2本になり縦帆が採用されました。さらに、伸子帆の登場により、帆の伸縮が容易になり、強風下での漁にも対応できるようになりました。昭和初期には、動力化が進んだことで縦帆の必要性が薄れましたが、現在でも、一部地域では横帆に竹の支えが入った構造が受け継がれています。

現存する打瀬船

昭和中期に動力機関の普及が進み、帆を張る打瀬船の姿は漁港や漁場から消えていきましたが、現在でも、鹿児島県出水市や熊本県芦北町では、伝統的な打瀬網漁に使用する打瀬船が残っています。また、霞ヶ浦では観光用の帆曳船が復活し、北海道の野付湾では、ホッカイエビ漁のために小型の打瀬船が現役で使用されています。

打瀬船・帆曳船を展示している博物館等

以下は、打瀬船や帆曳船の展示を行っている博物館の一部です。

実物展示

かすみがうら市歴史博物館（茨城県かすみがうら市）
浦安市郷土博物館（千葉県浦安市）
渚の博物館（館山市立博物館分館）（千葉県館山市）
千葉県立中央博物館大利根分館（千葉県香取市）
知多市歴史民俗博物館（愛知県知多市）

模型展示

北海道大学水産学部水産資料館（北海道函館市）
千葉市立郷土博物館（千葉県千葉市）
品川区立品川歴史館（東京都品川区）
大田区立郷土博物館（東京都大田区）
葉山しおさい博物館（神奈川県葉山町）
甲州市民文化会館（山梨県甲州市）
舞阪郷土資料館（静岡県浜松市）
半田市立博物館（愛知県半田市）
蒲郡市博物館（愛知県蒲郡市）
桑名市博物館（三重県桑名市）
三重県総合博物館（三重県津市）
徳島県郷土文化会館あぎわんホール（徳島県徳島市）
三原市歴史民俗資料館（広島県三原市）
由宇歴史民俗資料館（広島県岩国市）
光ふるさと郷土館（山口県光市）
中津市歴史博物館（大分県中津市）
大分県立歴史博物館（大分県宇佐市）
出水市立出水歴史民俗（鹿児島県出水市）

絵・図面・航海用具の展示

小樽市総合博物館図面（北海道小樽市）
土浦市立博物館航海用具（茨城県土浦市）
千葉県立中央博物館大利根分館航海用具（千葉県香取市）
舞阪郷土資料館図面（静岡県浜松市）
田原市渥美郷土資料館航海用具（愛知県田原市）
南知多町郷土資料館絵（愛知県南知多町）
知多市歴史民俗博物館図面・航海用具（愛知県知多市）
岸和田市立郷土資料館図面（大阪府岸和田市）

まとめ

打瀬船は、日本の漁業の歴史において重要な役割を果たした帆船です。その独特な構造や帆の進化は、日本の造船技術や漁業技術の高さを物語っています。現在でも、一部地域では伝統的な打瀬網漁が続けられており、また、博物館ではその歴史や構造を学ぶことができます。

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