投壺

投壺（とうこ）

投壺は、中国を発祥とする伝統的な遊戯であり、宴席などで楽しまれてきました。壺に向かって矢を投げ入れ、その入り方によって得点を競う、シンプルながらも奥深いゲームです。輪投げやダーツに似た要素を持ちますが、単なる遊びに留まらず、礼儀作法や教養を重んじる側面も持ち合わせています。

歴史

投壺の起源は非常に古く、『春秋左氏伝』にもその記述が見られます。儒教の経典である『礼記』には、投壺の儀礼、壺や矢の寸法、席からの距離などが詳細に規定されており、単なる遊戯以上の意味を持っていたことが伺えます。

時代が下るにつれて、『礼記』の記述とは異なる様々なルールが追加されていきました。『西京雑記』には、壺に投げ入れた矢が跳ね返る「驍（ぎょう）」という現象を尊んだという記述があります。顔之推の『顔氏家訓』にも、驍が重視されたことが記されています。また、壺の脇に「耳」と呼ばれる部分を設け、そこに矢が通ることを良しとするルールも生まれました。

北宋時代の司馬光は、投壺が礼記の精神から離れ、特殊な技能を競う娯楽になっていることを憂い、『投壺新格』を著して新たなルールを定めました。しかし、このルールもまた、当時の遊戯のルールを改訂したものであり、礼記のルールとは必ずしも一致しません。

ルール

司馬光の『投壺新格』によると、投壺に使用する壺は、高さ1尺、口の口径3寸で、両側に口径1寸の「耳」と呼ばれる穴があります。長さ2尺4寸の矢（箭）を12本使用し、矢の長さの2.5倍（6尺）離れた場所から投げます。

12本全てを壺に入れることができれば即座に勝利となります。それが難しい場合は、矢の入り方によって得点が加算され、先に120点に達した側が勝利となります。得点には、以下のようなものがあります。

最初の1本が成功すると10点（耳に入ると20点）
2本目以降、連続して成功すると1本につき5点
最後の1本が成功すると15点
耳に入ると10点
驍（矢が跳ね返る）は10点
その他は成功すると1点

司馬光以前には、壺の上に矢が載った場合にボーナス点が与えられることもありましたが、『投壺新格』では廃止されました。

各地への伝播

韓国の投壺

朝鮮半島でも、投壺（トゥホ）は伝統的な遊戯として親しまれてきました。『隋書』東夷伝には、百済で投壺が行われていたという記述が見られます。朝鮮時代には、両班（ヤンバン）の宴会で楽しまれ、19世紀末にはキーセンの遊戯としても行われていたようです。現代では、旧正月などの特別な日に、簡単なルールで行われることが多いです。

日本の投壺

日本では、『和名類聚抄』に「投壺」の訓として「つぼうち・つぼなげ」が記されています。正倉院には投壺用の壺と矢が残されていますが、中国や朝鮮半島ほど盛んには行われませんでした。江戸時代になると、儒学者の間で投壺に注目する者も現れましたが、定着には至りませんでした。ただし、投扇興は投壺を参考に考案されたと言われています。

投壺は、単なる遊戯としてだけでなく、文化交流の側面からも興味深いテーマです。その歴史やルール、そして各地への伝播の過程を辿ることで、当時の人々の生活や価値観を垣間見ることができます。

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