隋書

『隋書』は、中国の歴史を記した二十四史の一つであり、隋の時代（581年～618年）に焦点を当てた歴史書です。全60巻（本紀5巻、志30巻、列伝50巻）から構成されており、唐の時代、唐太宗の命により魏徴、長孫無忌といった著名な人物を中心に編纂されました。顔師古や孔穎達といった学者も編纂に関わったと伝えられています。636年（貞観10年）に本紀と列伝が、その後656年（顕慶元年）に志が完成し、編纂作業は完了しました。

『隋書』の最大の特徴は、志の部分が通史となっている点にあります。一般的な断代史である本紀や列伝とは異なり、志は南朝梁、陳、北斉、北周、そして隋の五王朝を包括的に扱っています。これは、当時、南朝と北朝が対立し、最終的に隋が統一を果たしたという歴史的流れを反映していると考えられます。この志の部分は、『史記』や『南史』『北史』といった他の歴史書と同様に、複数の王朝を横断的に記述する通史としての性格を持つため、独立して『五代史志』と呼ばれることもあります。

『隋書』の十志の中で特に名高いのは『経籍志』です。これは中国の正史に含まれる書物目録としては、『漢書』の『芸文志』に次ぐ重要なものとされており、当時の書物の状況を知る上で重要な史料となっています。また、『律暦志』には、南朝宋・斉の数学者、祖沖之が円周率を小数点以下7桁まで計算したという記録が残されています。これはヨーロッパでの同程度の計算よりはるかに古い成果であり、中国数学の高さを示す重要な発見です。

『隋書』には、東アジア地域の国際情勢を知る上で重要な記述も含まれています。『東夷伝』には、当時の倭国（日本）、高句麗、百済、新羅、そして琉求（琉球）に関する記述があり、これらの国々の政治、文化、風習などが記されています。倭国に関する記述では、腕に刺青をする風習や、倭王多利思北孤（推古天皇）が仏教の僧侶を隋へ留学させたことなどが記されています。これらの記述は、当時の東アジアにおける文化交流や国際関係を知る上で貴重な資料となっています。

『隋書』の構成は以下の通りです。

本紀（5巻）: 隋の皇帝たちの事績を年代順に記述。高祖文帝、煬帝、恭帝の治世が記されています。

志（30巻）: 国家制度、天文、暦法、音楽、地理、経済など、社会の様々な側面を論じた部分。十志として、五つの王朝（南朝梁・陳・北斉・北周・隋）を横断的に記述する通史的な性格を持ちます。『経籍志』、『律暦志』など、特筆すべき内容を含む巻が多くあります。

列伝（50巻）: 隋の時代の重要な人物の伝記。皇后、王族、官僚、文人、武将など、様々な立場の人物が取り上げられています。『東夷伝』は、倭国を含む東アジア諸国の記述を含む重要な列伝です。

『隋書』は、隋の時代のみならず、それ以前の南朝や北朝についても言及しており、中国の歴史を理解する上で重要な史料となっています。特に、十志に含まれる通史的な記述や『経籍志』、『律暦志』、『東夷伝』といった各巻の内容は、後世の歴史研究に多大な影響を与えてきました。現代においても、中国史研究、東アジア関係史研究など、様々な分野で重要な参考文献として活用されています。

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