折立 (登山口)

折立（おりたて）は、富山県富山市の有峰折立に位置する、飛騨山脈、いわゆる北アルプスへの重要な登山口です。特に、多くの登山者にとって憧れのルートである西銀座ダイヤモンドコースの正式な起点として広く認識されています。

この登山口の開設は、比較的新しい歴史を持っています。その背景には、1959年に完成した有峰ダムの存在があります。ダム建設に関連して整備されたインフラ、具体的には1967年に開通した有峰林道真川線と新折立トンネルが、この地域へのアクセスを飛躍的に向上させました。これに伴い、富山地方鉄道の路線バス（有峰線）が折立まで延伸され、バス停留所の設置と合わせて、現在の登山口やそこから山へと続く登山道が整備されたのです。このように、社会基盤の整備が北アルプスの新たな玄関口を生み出す契機となりました。

折立へのアクセスは、公共交通機関と自家用車のいずれでも可能です。公共交通を利用する場合、まずは富山駅から富山地方鉄道に乗車し、有峰口駅で下車します。そこから夏季を中心に運行される路線バスに乗り換えることで、折立バス停留所に直接アクセスできます。また、登山シーズンには、富山県内だけでなく、東京（竹橋・新宿）や名古屋といった大都市圏からも折立バス停留所へ直行する登山バスが運行されており、遠方からの登山者にとっても利便性が高い玄関口となっています。なお、富山地方鉄道の有峰線バスは通常7月から10月にかけての季節運行ですので、利用の際は運行期間を確認する必要があります。

折立からの登山ルートは多岐にわたりますが、まず多くの登山者が目指すのは、南東へ約7キロメートルの距離にある太郎平小屋です。飛騨山脈の立山連峰稜線上に位置するこの山小屋は、複数の重要ルートが交差する拠点となっています。太郎平小屋からは、様々な方面への縦走やピークハントが可能です。

最も有名なルートの一つが、西銀座ダイヤモンドコースを形成する南方向への縦走路です。太郎平小屋から太郎山を経て、北ノ俣岳、黒部五郎岳、三俣蓮華岳、双六岳といった名峰を次々と越えていくこのルートは、雄大な稜線歩きの景観が魅力です。最終的には槍ヶ岳まで至る長期縦走コースの一部を成しており、高い体力と経験が要求されます。

また、太郎平小屋から南東方向へ下ると、薬師沢を経て雲ノ平へと至るルートがあります。雲ノ平は「日本の秘境」とも称される高層湿原が広がる独特の景観を持つエリアであり、折立はそこへのアプローチとしても利用されます。

さらに、太郎平小屋から北東方向へ向かえば、日本百名山の一つである薬師岳への登山道が延びています。薬師岳は、その山容の美しさと高山植物の豊かさで知られ、多くの登山者を惹きつけています。

登山口周辺には、登山者が安全かつ快適に山行を始められるよう、いくつかの施設が整備されています。前述の富山地方鉄道有峰線の折立バス停のほか、100台分の無料駐車場があり、多客期には臨時駐車場も設けられます。テント泊を計画する登山者のためには、50張分の無料の折立キャンプ場が利用できます。また、折立ヒュッテは休憩所として機能しており、登山前後の休憩や情報収集に便利ですが、宿泊はできません。これらの施設は、主に北陸電力によって管理・運営されています。

折立は、単なる登山口ではなく、日本の屋根・北アルプスの奥深くまで分け入るための重要な拠点です。ここから始まる様々な登山ルートは、それぞれ異なる魅力を持っており、多くの登山者に忘れられない高山体験を提供しています。

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