雲ノ平

雲ノ平（くものたいら）

北アルプスの奥深くに位置し、富山県富山市有峰に属する雲ノ平は、黒部川の源流域に広がるなだらかな地形の溶岩台地です。別名「奥ノ平」とも呼ばれ、中部山岳国立公園の特別保護地区に指定されています。

この地は、黒部川とその支流、岩苔小谷に挟まれた標高2,500mから2,700mにかけて広がっており、日本国内で最も高所に位置する広大な溶岩台地として知られています。祖父岳火山の活動によって形成されたその面積は約25万平方メートルにも及びます。台地上には、数多くの池塘（湿原などにできる小さな池）や巨岩が点在し、独特の景観を生み出しています。また、ここでは多様な高山植物が自生しており、その植生に合わせて「庭園」と名付けられた区画が複数存在します。

雲ノ平は北アルプスの最も奥まった場所に位置するため、どの登山口からも一日で到達することは非常に困難です。この地理的な隔絶性から、「日本最後の秘境」と称されることもあります。

標高が高いため森林限界を超えており、台地の上部はハイマツ帯に覆われています。歩きやすいように木道が整備されている場所が多く、特に祖母岳の山頂や一部の庭園では、休憩用のベンチも見られます。黒部川の源流にあたる地点には、その始まりを示す「黒部川水源地標」の碑が建立されています。なお、富山市有峰雲の平は日本郵便により交通困難地に指定されているため、郵便物の配達はできません。

雲ノ平の庭園

雲ノ平の魅力の一つは、それぞれに個性的な名前が付けられた高山植物の群落エリア、「庭園」群です。主なものとして、祖父岳南腹の日本庭園、キャンプ地北側の池塘と岩が美しいスイス庭園（水晶岳を望む）、雲ノ平山荘周辺のギリシャ庭園、コロナ観測所北側の奥スイス庭園、祖母岳山頂部の展望が良いアルプス庭園、祖父岳北側のハイマツ帯に池塘が点在する奥日本庭園、シラビソ林がアラスカを思わせるアラスカ庭園、溶岩が多い祖父岳北西の祖父庭園など、8つのエリアがあります。

雲ノ平の高山植物

季節ごとに様々な花々が咲き誇ります。雲ノ平山荘周辺ではアオノツガザクラ、イワイチョウ、クロユリなど、ギリシャ庭園周辺ではコバイケイソウ、ハイマツなどが見られます。日本庭園周辺では、チングルマやハクサンイチゲ、ワタスゲといった代表的な高山植物の群落を楽しむことができます。

雲ノ平への登山

北アルプス最深部に位置するため、雲ノ平へのアクセスは容易ではありませんが、多様なルートが存在します。植物保護のため木道などの整備が進められています。一般的に利用される主要なルートは以下の通りです。

折立からのルート: 太郎平小屋、薬師沢小屋を経由し、アラスカ庭園を経て雲ノ平山荘へ至る、比較的短いアクセス路です。薬師沢小屋からは黒部川沿いの大東新道もあります。
裏銀座ルート: 北方から、高瀬ダムを出発し、烏帽子岳、野口五郎岳、水晶小屋、鷲羽岳などを経由して雲ノ平山荘へ向かう、北アルプス屈指の縦走路の一部です。鷲羽岳からは黒部源流部を経由する巻道もあります。
小池新道ルート: 新穂高温泉から鏡平山荘、双六小屋、三俣蓮華岳などを経由し、黒部源流部を経て雲ノ平山荘に至る、人気の高いルートです。
伊藤新道: 2023年に復活した高瀬ダムからのルートで、湯俣温泉を経て三俣山荘、黒部源流部を経由します。渡渉などがあり、上級者向けのコースとされています。

これらの他にも、槍ヶ岳方面からの西鎌尾根を経て双六岳・三俣蓮華岳方面からアクセスするルートなど、多岐にわたる登山道が雲ノ平へと繋がっています。

雲ノ平山荘

雲ノ平の中心近くの高台には、1961年に三俣山荘の経営者であった伊藤正一氏によって開設された山荘があります。現在の建物は、老朽化に伴い2009年に初代を取り壊した後、2010年に再建された二代目です。定員は60名。山荘から700mほど東にはキャンプ指定地があり、テント約50張りが可能です（トイレ、水場完備）。また、その北側には無人の太陽コロナ観測所が設置されています。

周辺情報

雲ノ平の周囲には、祖父岳、祖母岳、水晶岳、鷲羽岳、三俣蓮華岳、黒部五郎岳、薬師岳といった北アルスの名峰が連なり、これらの山々への縦走路と雲ノ平へのルートが交差しています。周辺には登山者を迎える山小屋（太郎平小屋、薬師沢小屋、水晶小屋、双六小屋、三俣山荘など）が点在しています。また、同じ北アルプス内には、同様に溶岩台地である立山連峰の五色ヶ原も存在します。

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