押書

押書（あっしょ/おうしょ）とは

押書とは、中世日本において作成された契約書や誓約書の一種であり、将来の履行を約束した文書です。平安時代から戦国時代にかけて広く用いられました。現代の契約書とは異なり、特定の書式が定められていたわけではありませんが、その文書が「押書」であることを明記する必要がありました。

押書の概要

押書は、売買契約、貢納契約、紛争の和解条件の履行、契約後に発生したトラブルに対する措置の履行など、様々な場面で作成されました。現代の契約書のように詳細な条項が記載されているわけではありませんが、当事者間の合意内容と、その履行を約束する意思表示が明確に記されていました。

また、押書は、請文（うけぶみ）や借用状（しゃくようじょう）としての役割も果たすことがありました。例えば、金銭の貸し借りや物品の受け渡しを約束する際に、その証拠として押書が作成されることがありました。このように、押書は、契約内容を証明し、当事者間の権利義務関係を明確にするための重要な役割を担っていました。

懸物押書（かけものあっしょ/かけものおうしょ）・懸物状（かけものじょう）

押書の中でも特殊なものとして、懸物押書または懸物状と呼ばれるものがあります。これは、所領などの土地争いの訴訟において用いられました。訴人（原告）と論人（被告）の間で、訴訟に負けた側が勝った側（または勝訴者が指定する相手）に土地の権利を放棄することを約束するもので、訴訟機関に提出されました。

この懸物押書は、一度確定した裁決に対する不服申し立て、つまり再訴を防ぐためのものでした。訴訟の結果に不満を抱いたとしても、この押書を提出している以上、再び同じ訴えを起こすことが難しくなります。これにより、訴訟の長期化や紛争の再燃を防ぐ効果があったと考えられています。

押書の重要性

押書は、中世社会において、人々の経済活動や社会生活を円滑に進める上で重要な役割を果たしました。口約束だけでは曖昧になりがちな合意内容を文書化することで、当事者間の権利義務関係を明確にし、紛争を未然に防ぐことが期待されました。また、万が一、紛争が発生した場合にも、押書は有力な証拠として機能しました。

現代の契約書と比較すると、その書式や内容は簡素ですが、中世の人々にとって、押書は、約束を交わし、それを守るための重要なツールであったと言えるでしょう。

参考文献

羽下徳彦「押書」（『国史大辞典 1』吉川弘文館、1979年）
小田雄三「押書」（『日本史大事典 1』平凡社、1992年）
佐藤和彦「押書」（『日本歴史大事典 1』小学館、2000年）
井原今朝男「中世契約状における乞索文・圧状と押書」（初出:『鎌倉遺文研究』第17号（2006年）/所収:井原『日本中世債務史の研究』東京大学出版会、2011年）

関連項目

* 請証文

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