拷問台

拷問台（ラック）について

拷問台は、古代から用いられていた拷問器具の一種であり、特に中世から近世にかけてのイングランドで使用されたものがよく知られています。英語では「rack」と呼ばれ、これは「棚」を意味します。

構造と使用方法

拷問台は、人を寝かせられるほどの長方形の木製フレームで構成されており、地面から少し浮いた構造をしています。フレームの両端にはローラーが取り付けられており、一方のローラーには足首を、もう一方のローラーには手首を鎖で繋ぎます。拷問官は、ローラーに取り付けられたハンドルを回すことで鎖を巻き取り、対象者をゆっくりと引っ張ります。ラチェット機構により逆回転はしないため、一度引っ張られた鎖は緩むことはありません。

この方法により、肩、腰、膝、肘に徐々に大きな負担がかかり、耐え難い苦痛を与えます。滑車やレバーを使用することで、さらに大きな力を加えることも可能です。時には、関節が脱臼するほどの負担が加えられました。

拷問台による恐怖

拷問台の恐ろしさは、単に肉体的な苦痛だけではありません。靭帯が切れたり、骨が折れたりする音が聞こえることで、精神的な恐怖も与えました。また、拷問を受けている様子を見せることで、他の尋問対象者に圧力をかける効果もありました。

拷問台に固定された状態では、他の拷問も容易に加えることができました。例えば、側面を熱した松明やロウソクで焼いたり、特別なペンチで手足の爪を剥いだり、赤熱させた石炭を足の指に挟んで動かすといった行為が行われました。その結果、肘、膝、手首、足首が脱臼し、時には肩や腰部が裂けることもありました。

歴史的な使用例

古代

拷問台の起源は古代に遡りますが、正確な発祥地は不明です。最古の例としては、古代ギリシャにおいて奴隷や非市民を拷問する手段として用いられていたと考えられています。紀元前356年には、アルテミス神殿を放火したヘロストラトスに自白させるために使用されたという記録があります。

アッリアノスの『アレクサンドロス東征記』には、紀元前328年にアレクサンドロス大王が、自身への暗殺を企てた人物とその師である宮廷歴史家のカリステネスを拷問台にかけたという記述があります。

タキトゥスによれば、紀元65年のピソの陰謀において、皇帝ネロの暗殺計画に関与した自由民の女性エピカリスが、仲間の名前を吐かせるために拷問台にかけられました。しかし、彼女は口を割らず、翌日に拷問台へ連れていかれる途中で自殺しました。

拷問台は、サラゴサのヴィセンテ（紀元304年）など初期のキリスト教徒にも使用され、テルトゥリアヌスやヒエロニムスによって言及されています。

イギリス（イングランド）

イギリスに拷問台が初めて登場したのは、1447年にロンドン塔管理長官であった第2代エクセター公ジョン・ホランドが導入した時とされています。そのため、拷問台は「エクセター公の娘（the Duke of Exeter's daughter）」という愛称で呼ばれました。

プロテスタントの殉教者アン・アスキューは、1546年に火炙り刑に処される前に拷問台による拷問を受けました。彼女は聖書の研究と詩の暗唱で知られており、自身の信念を貫き通しました。拷問によって身体に障害を負った彼女は、椅子に乗せられて処刑台に送られたと伝えられています。

カトリックの殉教者ニコラス・オーウェンは、聖職者の巣穴（カトリック司祭を匿う隠し部屋）の建築で有名な人物でしたが、1606年にロンドン塔で拷問台にかけられ獄死しました。また、1605年の火薬陰謀事件に関与したガイ・フォークスも、拷問を許可する王室の令状が残っていることから、拷問台にかけられたと考えられています。

1615年には、大逆罪に問われた聖職者エドモンド・ピーチャムが拷問台にかけられました。

1628年、初代バッキンガム公ジョージ・ヴィリアーズを暗殺したジョン・フェルトンに対し、拷問台の使用が提案されましたが、その合法性が問題視されました。裁判官たちはこの提案に反対し、拷問台の使用はイングランド法に反すると宣言しました。

ロシア

18世紀までロシアで使用されていた拷問台（дыба, dyba）は、対象を吊るす絞首台のような装置でした。吊るされた犠牲者は、ナウトゥと呼ばれる革の鞭で打たれ、時には松明で焼かれることもありました。

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