振売

振売（ふりうり）とは

振売（ふりうり）とは、近世までの日本で一般的だった商業形態の一つです。天秤棒の両端に商品を入れたざる、木桶、木箱、カゴなどを吊るし、それを担いで街中を売り歩きました。棒手売（ぼてふり）や棒手振りとも呼ばれます。

江戸の食事情と振売

振売が最も盛んだったのは、江戸時代です。江戸は幕府によって計画的に作られた都市であり、武士を中心とした消費階級を支えるために、大量の食料品が必要とされました。平和な時代が続くと江戸への移住者が増加し、人口は世界最大級となりました。その結果、食料を隅々まで供給するための流通システムが発展し、振売はその末端を担っていました。

振売という商売

振売は、火を使うことができず、主に生の食材や調理済みの食品を扱いました。特別な技術や店舗を構えるための権利が不要だったため、開業は比較的容易でした。幕府は、50歳以上の高齢者、15歳以下の若年者、または身体が不自由な人に開業許可を与えていました。

『守貞謾稿』には、振売が「三都（江戸・京都・大坂）ともに小民の生業」として、生活を支えていた様子が記されています。魚売りの威勢の良い掛け声なども記録されています。振売は特定の場所に限らず、江戸の街の至る所にいました。

振売の売り物

『守貞謾稿』には、油揚げ、鮮魚、豆腐、醤油、七味唐辛子、寿司、甘酒など、様々な食品を扱う振売が紹介されています。また、「冷水売り」のように、冷たい水を白糖と寒ざらし粉の団子で甘くして売る者もいました。

中には悪徳な振売もおり、鶏や雁の肉の代わりに豆腐の殻を混ぜて売るなどの詐欺行為も存在しました。

食品以外にも、ほうき、花、風鈴、筆墨、樽、桶、木屑、笊、蚊帳、草履、蓑笠、植木、金魚、鈴虫など、日用品やおもちゃ、愛玩動物を売る振売もいました。現代にも残る「竿竹売り」や、相撲の勝負結果を売る「勝負付売り」もその一種です。

江戸幕府は、庶民の贅沢を取り締まることがあり、高価な寿司を売る職人が処罰されることもありました。

サービスを売る振売

食品や日用品の販売だけでなく、錠前直し、メガネ直し、割れ鍋直し、按摩などのサービスを提供する振売もいました。修理道具を天秤棒にぶら下げて歩き、職人技を必要とする仕事をしていました。

また、紙屑、灰、古着、古傘、ろうそくのカスなどを買い集める振売もいました。これらのものはリサイクルされ、再利用されました。

まとめ

振売は、江戸の庶民の生活を支える重要な存在でした。食料品や日用品の販売、サービスの提供、リサイクルの促進など、多岐にわたる役割を果たしていました。振売の存在は、当時の社会や経済、文化を理解する上で欠かせない要素と言えるでしょう。

参考文献
原田信男『江戸の食生活』岩波書店、2003年。
三谷一馬『江戸物売図聚』立風書房、1980年。

関連項目
行商
物売り
露天商
大原女
* 桂女

もう一度検索