振鉾

振鉾（えんぶまたは延鉾）は、伝統的な舞楽における重要な演目の一つです。この演目は舞人たちが特定の動作を伴いながら鉾を振る様子を中心に構成されています。振鉾は、舞楽の上演に際して行われる儀式であり、特に舞台を清めるための意味を持ちます。振鉾の演目は、主に三つの段階から成り立っており、それぞれに特徴があります。

最初は「一節」と呼ばれ、左方の舞人が鉾を振ります。舞人は、優雅でスムースな動作で鉾を振り舞い、その姿は観る者に強い印象を与えます。その後、右方の舞人が登場し、同様に鉾を振る「二節」が行われます。この二つのセクションが終わると、最後の段階「三節」に移行し、左右両方の舞人が同時に鉾を振る様子が展開されます。特にこの三段階目は「合わせ鉾」とも呼ばれ、両者の動作が一つに融合し、演出の見どころとなります。

振鉾の伴奏には、「乱声」と呼ばれる特異な音楽形式が用いられ、舞人の動きと相まって独特の雰囲気を醸し出します。このような音楽や舞動は、観客に深い感動を与え、伝統文化の中で振鉾が果たす役割の重要性を際立たせます。

振鉾の由来には、周の武王が殷の帝辛（紂王）を討伐した際の伝説があります。彼は黄金の鉞を左手に、白い毛の牛の体毛を装飾した旗を右手に持ち、天下の平和を誓ったとされ、このエピソードは「教訓抄」にも伝わっています。振鉾はその教訓とともに、古の混乱を収束し、平和を象徴する儀礼として位置づけられています。

振鉾の演目を正しく理解するためには、古代日本における文化や儀式の意義を知ることが重要です。舞楽は、神事や祭りといった宗教的な場においても行われ、その中で振鉾は特に重要な役割を果たします。この演目は、ただのパフォーマンスではなく、深い信仰心と文化的伝承が込められた、生きた歴史の一部なのです。

参考文献としては、鳥居本幸代による「雅楽 時空を越えた遥かな調べ」（春秋社）や、「雅楽入門事典」（柏書房）が挙げられます。これらの資源を通じて、振鉾の背景や意義、更には舞楽全体の魅力を知ることができるでしょう。古来の文化を今に伝えるその姿を、ぜひ一度体験してみることをお勧めします。

もう一度検索