掌侍

掌侍（ないしのじょう）

掌侍は、日本の律令制における女官の一つであり、特に平安時代においてその存在感を示した役職です。もともとは内侍司の判官としての役割を担っていましたが、時が経つにつれて尚侍や典侍とともに、後宮全体の運営を統括する権限を持つ立場へと進化しました。掌侍の中でも第一臈に位置づけられる「勾当内侍」（こうとうのないし）は、特に高い地位にあったことから注目されます。

掌侍の役割

掌侍は尚侍や典侍と共に天皇に近侍し、内裏内の儀式や日常的な事務処理の指揮を行っていました。平安時代中期以降、内侍司を中心に後宮が再編され、その結果として掌侍の役割はさらに重要性を増しました。掌侍は命婦や女孺らを指揮し、皇宮内の儀礼をスムーズに進行させるための中心的な存在として機能しました。加えて、天皇の行幸に同行したり、祭礼の使者に任命されることもありました。

江戸時代に入ると、掌侍の役割には御所の清掃や天皇への食事の提供、皇后の髪の手入れをするなど、さまざまな業務が加わりました。選ばれる際には羽林家や名家からの人選が多く、非常に名誉な職位とされました。

勾当内侍の意義

掌侍の中でも特に重要な地位である勾当内侍は、掌侍の中で最も年長な人物が任命されることが一般的でした。「勾当」という言葉は、特定の事務を担当することを意味しており、勾当内侍は八咫鏡を安置する場所を管理していたことから、この名称が用いられました。また、長橋局という特定の部署に居室を持っていたため、この名でも知られています。

勾当内侍に関する最初の文献記録は、『長秋記』に見られ、藤原泰子の皇后立后に関する儀式において、当時の勾当掌侍である「美乃」という女性が重要な貢献を果たしたことが記されています。このように、勾当内侍は後宮の経理、総務、人事、庶務などの事務全般を管理し、「女房奉書」を取り扱うなど多様な職務を担いました。

勾当内侍と他の掌侍の違い

勾当内侍はその地位上、他の掌侍とは異なる待遇を受けていました。一般的な掌侍は従五位の位を持ちましたが、勾当内侍は正五位下に位置づけられており、知行も200石と高く評価されていました。このため、江戸時代末期までこの役職の存在意義は強く、その収入から「千両長橋」という異名を持つこともありました。

有名な勾当内侍

特に著名な勾当内侍として、一条経尹の娘で新田義貞の妻とされる人物が挙げられます。この女性は多くの伝説を残しており、掌侍という地位の象徴的存在ともなっています。また、現在も京都御所には勾当内侍の住まいであった長橋局が残されており、その歴史的な意義を物語っています。

掌侍という職位は、単なる女官の役割にとどまらず、後宮の重要な運営を支える役割を果たした点で、日本の歴史の中で特筆すべき存在でした。

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