掛川源一郎

生涯と経歴

掛川源一郎（かけがわ げんいちろう）は、1913年（大正2年）11月17日に北海道室蘭町（現在の室蘭市）に生まれた日本の写真家です。2007年（平成19年）12月26日に94歳でその生涯を終えました。

中学時代にカメラの世界に入り、室蘭中学校（現北海道室蘭栄高等学校）を卒業後、千葉高等園芸学校（現千葉大学園芸学部）に進学しました。卒業後は誠文堂新光社に入社し、雑誌『実際園芸』の編集所に勤務。ここでは編集記者としての職務と並行してカメラマンとしても活動し、写真の技術と経験を積みました。

社会派ドキュメンタリストとして

戦後、伊達高校で教員を務める傍ら、掛川は北海道を拠点に社会派写真家としての活動を本格化させます。写真家・土門拳が提唱した「絶対非演出の絶対スナップ」というリアリズム写真の思想に強く共鳴し、作為的な演出を排除し、被写体のありのままの姿を捉えるドキュメンタリー写真に傾倒しました。

彼のレンズは、戦後北海道の厳しい現実、社会の光と影に向けられました。貧しい漁村で暮らす人々、困難に立ち向かう開拓農家、そして急速な近代化の波の中で独自の文化を守り、あるいは失っていくアイヌ民族の暮らしを、長期間にわたって丹念に記録しました。これらの作品群は、単なる記録にとどまらず、被写体の人間性や生活のリアリティを深く写し出し、観る者に強い問いかけを投げかけます。

また、特定の社会問題や出来事にも積極的に向き合いました。ポリオ（小児マヒ）と闘う子どもたちの姿を追ったシリーズや、伊達発電所建設を巡る反対運動、有珠山噴火といった自然災害とそれに立ち向かう人々の姿を写真に収め、時代の証言者としての役割も果たしました。彼の作品は、高度経済成長期からバブル期にかけての北海道社会が経験した変化や葛藤、そしてそこで生きる人々の営みを記録した貴重な歴史的資料となっています。

受賞と評価

掛川源一郎の写真活動は、その社会性や記録としての重要性、芸術性が高く評価されました。1961年には、雑誌「世界」に掲載された写真が認められ、第2回講談社写真賞を受賞。これは、当時の写真界における彼の地位を確立する大きな出来事でした。

その後も、1991年には長年の功績が称えられ、第7回東川賞特別賞を受賞。また、2006年には北海道の文化振興に貢献した人物に贈られる北海道新聞文化賞を受賞するなど、晩年に至るまでその活動は継続的に評価され続けました。

著作と集大成

写真家としての活動と並行して、掛川は自身の作品をまとめた写真集や著作も多数発表しています。特に、アイヌ民族に関する記録は重要視され、文化人類学者の更科源蔵との共著である『アイヌの神話』『アイヌの四季』をはじめ、『若きウタリに』といった書籍を通じて、アイヌ文化の記録と継承に貢献しました。その他にも、『大地に生きる』『バチラー八重子の生涯』などの著作があります。

2000年には、妻の入院を機に札幌市に転居。そして、約70年に及ぶ自身の写真家人生の集大成として、2004年4月には写真集『gen 掛川源一郎が見た戦後北海道』を出版しました。この写真集には、文化人類学者の山口昌男や写真家の吉田ルイ子といった著名な識者が言葉を寄せており、その内容の深さと重要性が改めて示されました。また、同年4月には北海道立文学館で写真展「写真家 掛川源一郎の20世紀」が開催され、彼の生涯にわたる作品が広く紹介されました。

永眠と後世への影響

2007年12月26日、掛川源一郎は肺炎のため、札幌市中央区の病院で94年の生涯を閉じました。

現在、彼の全著作権は掛川源一郎写真委員会によって管理されており、その貴重な写真作品や記録は、北海道の歴史、社会、文化を知る上で欠かせない遺産として、今後も語り継がれていくことでしょう。彼のリアリズムに根差したドキュメンタリー写真は、時代を超えて私たちに多くのことを問いかけています。

（参照: 写真家掛川源一郎の20世紀 北海道立文学館特別展 2004年）

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