揚北衆

揚北衆

揚北衆（あがきたしゅう）とは、日本の歴史において、鎌倉時代から戦国時代にかけて越後の北部、具体的には阿賀野川（揚河）の北岸一帯（現在の新潟県村上市、胎内市、新発田市、阿賀野市、関川村など）を活動拠点とした在地勢力、国人豪族たちのことを指します。この地域は揚北と呼ばれ、阿賀北衆とも称されました。

起源と構成

揚北衆を構成する豪族たちの起源は、鎌倉時代にまで遡ります。この時代、武蔵国の秩父氏、相模国の三浦氏、近江国の佐々木氏、伊豆国の大見氏といった関東や近畿地方の有力武家が、越後の荘園における地頭職に任命されて入国しました。彼らはそれぞれの所領を支配し、時が経つにつれてその子孫たちは地域への根を下ろし、領地の地名を姓として名乗るようになりました。こうして在地化した武士たちが国人となり、揚北衆と呼ばれる勢力を形成していったのです。

出自によって大きく四つのグループに分けられます。

秩父党: 小泉庄（現在の村上市周辺）を本拠とし、本庄氏（宗家）、色部氏、鮎川氏などが含まれます。
三浦党: 奥山庄（現在の胎内市周辺）を本拠とし、中条氏（宗家）、黒川氏などが含まれます。
佐々木党: 加地庄（現在の新発田市周辺）を本拠とし、加地氏（宗家）、新発田氏、竹俣氏、五十公野氏、新津氏などが含まれます。
大見党: 白河庄（現在の阿賀野市周辺）を本拠とし、安田氏（宗家）、水原氏、下条氏などが含まれます。

この他に、相模の河村氏を祖とする垂水氏（現在の関川村周辺）や、土豪出身と考えられている大川氏（現在の村上市周辺）なども揚北衆に含まれます。

歴史と独立性

「揚北衆」という呼称が歴史上に確認されるのは戦国時代初期（永正年間）ですが、その実質的な勢力としての成立は室町時代の文明年間頃と推定されています。彼らは鎌倉時代からの伝統的な地域支配者としての意識が強く、越後守護である上杉氏や守護代である長尾氏といった新たな支配者に対して、しばしば強い独立性を保ち、対立姿勢を示すことがありました。この揚北衆の独立性の高さは、室町時代から戦国時代中期にかけての越後における政治情勢を不安定化させる一因ともなりました。

戦国期の動向と上杉謙信

戦国時代に入ると、揚北衆内部でも所領を巡る争いや主導権争いが激化します。特に、天文年間には本庄氏や中条氏、鮎川氏、黒川氏などの間で複雑な対立が発生し、揚北衆の分裂を招きました。このような状況の中、長尾景虎（後の上杉謙信）が越後の支配権を確立していきます。謙信は揚北衆の伝統的な立場を尊重しつつも、彼ら同士の紛争に介入して解決を主導することで信頼を得ていきました。また、彼らを本拠である越後府中へ呼び寄せ、軍事的な動員を行うことで、自身の家臣団へと組み込んでいきました。揚北衆は、上杉家臣団の中でも独自の存在感と強力な軍事力を誇り、当時の軍役帳からは上杉軍全体の約3割の兵力を担っていたと記録されています。特に、第四次川中島の戦いでは目覚ましい活躍を見せ、色部勝長、安田長秀、中条藤資、垂水源二郎（荒川長実）の四名は上杉謙信から血染めの感状を賜ったと伝えられています。

上杉氏従属後と終焉

しかし、上杉氏の傘下に入った後も、揚北衆内部の対立の火種は完全に消えたわけではありませんでした。永禄11年（1568年）に発生した本庄繁長の乱は、武田信玄の調略や長尾藤景との対立が要因とされますが、本庄繁長と鮎川盛長の根深い確執が背景にあったともいわれています。また、乱の鎮圧で功績を挙げた新発田長敦・重家兄弟が謙信の信頼を得て揚北衆の中で影響力を増すと、これに反発する動きも生まれました。上杉謙信の死後、御館の乱を経て上杉景勝が跡を継ぐと、天正8年（1580年）に本庄繁長が再び鮎川盛長を攻撃。これに対し新発田重家が鮎川救援に駆けつけ、さらに竹俣氏や色部氏といった他の有力揚北衆が本庄氏側につくなど、揚北衆全体を巻き込む争乱へと発展しました。これが、後の新発田重家の乱の伏線となったと考えられています。

新発田重家の乱の結果、新発田氏や五十公野氏は滅亡し、乱への関与が疑われた本庄氏も一時的に所領を追われました（後に帰参）。多くの一族は、上杉景勝の会津移封、さらに米沢への移封に従い、生まれ故郷である越後を離れました。米沢藩では、本庄氏、色部氏、中条氏、竹俣氏などが藩内で最上位の家格である侍組分領家に列し、家老などの重職を務めて藩の中枢を担いました。一方、垂水氏は江戸時代初期に加賀藩主本多政重の家臣となり、加賀藩に仕えています。

なお、室町時代から白河庄（現在の阿賀野市周辺）を所領とした山浦氏や千坂氏といった家は、越後守護上杉家の庶流であったり、守護と同格の家柄であったため、一般的に揚北衆には含まれないとされています。

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