本多政重

本多政重：波乱に満ちた生涯と加賀藩での貢献

本多政重は、安土桃山時代から江戸時代前期にかけて活躍した、知略と武勇を兼ね備えた武将です。徳川家家臣・本多正信の次男として誕生した彼は、複雑で劇的な人生を送りました。その生涯は、主君への忠誠と裏切り、そして数々の困難と成功に彩られています。

出自と若き日の騒動

天正8年（1580年）、本多正信の次男として生まれた政重は、天正19年（1591年）、徳川家の家臣・倉橋長右衛門の養子となりました。しかし、慶長2年（1597年）、徳川秀忠の乳母・大姥局の息子を殺害する事件を起こし、出奔。その後、大谷吉継、宇喜多秀家の家臣となります。宇喜多家では2万石を領し、「正木左兵衛」と名乗りました。

関ヶ原の戦いからの転換期

慶長5年（1600年）の関ヶ原の戦いでは西軍に属し、奮戦しましたが、敗戦後近江堅田に隠棲しました。その後、福島正則、前田利長に仕えましたが、いずれも長くは続きませんでした。

上杉家との複雑な関係

この頃、上杉景勝の重臣・直江兼続は、本多正信との関係強化を図り、慶長9年（1604年）、政重を婿養子として迎えました。兼続の娘・於松を妻とし、「直江大和守勝吉」と名乗った政重は、兼続の期待に応え、上杉家の政治的基盤強化に貢献する役割を担っていました。しかし、妻の死後、兼続の反対を押し切って養女を娶ったものの、慶長16年（1611年）に上杉家を離れ、武蔵国岩槻に潜伏しました。

加賀藩での活躍と晩年

慶長17年（1612年）、藤堂高虎の仲介により、前田家に「帰参」し、3万石を与えられました。前田利常の補佐として家老となり、その手腕を発揮しました。加賀藩が幕府から疑いをかけられた際には、江戸に赴き懸命に釈明を行い、藩の危機を救いました。その功績により、さらに加増され、5万石の大名となりました。大坂の陣にも従軍しましたが、真田信繁との戦闘で敗北を経験しました。

その後も、加賀藩前田家において家老として活躍し、前田光高、前田綱紀の時代まで仕えました。寛永4年（1627年）、嫡男の死と正室の死を経験した後、再婚。正保4年（1647年）、68歳で病没しました。

多方面への影響

政重の生涯は、単なる武将の物語ではありません。彼は、様々な勢力の間を駆け巡り、複雑な政治的駆け引きの中で生き抜きました。上杉家との関係は、その生涯において大きな転換点であり、加賀藩での活躍は、前田家の繁栄に大きく貢献しました。彼の子孫も、各地で活躍し、加賀藩や他の藩に影響を与えました。彼の生涯は、戦国・江戸時代の人間模様と、武将たちの複雑な立場、そして権力闘争を理解する上で、重要な手がかりとなります。また、政重の生涯を辿ることで、当時の政治状況や社会情勢を多角的に理解することができます。

参考文献

木村徳衛『直江兼続伝』（私家版）、1944年
渡邊三省『直江兼とその時代』野島出版、1980年
大野充「前田利常政権の成立」、『海南史学』20号、1982年
清水聡「慶長期加賀藩の政治体制と幕藩体制への編成 ― 『三ヶ条条書』と本多政重登用を中心に ―」、『立正大学大学院年報』20号、2003年
清水聡「慶長期加賀藩における幕藩制的秩序への編成過程 ― 『取次』本多政重の創出とその政治的役割 ―」、『立正史学』95号、2004年
清水聡「元和期加賀藩における幕藩制的秩序への編成と藩政の成立 ― 出頭人政治の創出とその政治的意義 ―」、『加能史料研究』17号、2005年
阿部哲人「江戸幕府と直江兼続 ― 二人の息子と ―」、矢田俊文編『直江兼続』高志書院、2009年
本多俊彦「本多政重家臣団の基礎的考察 ― その家臣団構成について ―」、『高岡法科大学紀要』20号、2009年
* 本多俊彦「「直江勝吉」に関する一考察」、花ケ前盛明監修『直江兼続の新研究』宮帯出版社、2009年

もう一度検索