揚州教案

揚州教案：1868年の反キリスト教事件

1868年、中国の江蘇省揚州府江都県広陵で、キリスト教に対する大規模な反発事件、通称「揚州教案」が発生しました。この事件は、単なる地域紛争ではなく、当時の中国における宗教と外国勢力に対する複雑な感情が絡み合った結果と言えるでしょう。

事件の背景

事件の直接的な引き金となったのは、フランスのカトリック教会が揚州に開設した育嬰堂（孤児院）でした。この施設では多数の孤児が収容されていましたが、開設からわずか半年間で24名もの子供たちが亡くなったことで、地域住民の間には「宣教師が子供たちを食料にしている」という根拠のない噂が広がりました。

さらに、この時期にハドソン・テイラー率いる中国奥地伝道団が揚州に到着し、市街に教会を設立したことも、地元住民の反感を増幅させる要因となりました。特に、地元の知識層である生員たちは、キリスト教の排斥を求めるビラを貼り、公然と反対運動を展開しました。

事件の経過

1868年8月22日の夜、ついに事件は勃発します。8千人から1万人の群衆が、刀や棍棒を手に、揚州の教会を包囲しました。彼らは教会にレンガを投げつけ、内部に侵入すると器物を破壊し、火を放ちました。宣教師たちは命からがら逃げ出し、テイラーの妻マリアは脚を負傷、エミリー・ブラッチリーも怪我を負いました。

テイラーとダンカンは、地元の行政官である知府に保護を求め、翌日には県の役人が用意した駕籠で南門まで送られ、その後鎮江へと避難しました。

交渉と影響

事件の知らせはすぐにイギリスに伝わり、駐上海領事のサー・ウォルター・ヘンリー・メドハーストが即座に揚州へ駆けつけました。彼は揚州知府との交渉を試みましたが、満足な回答を得られなかったため、護衛の軍艦リナルド号と共に南京へ向かい、両江総督の曽国藩と交渉を始めました。

しかし、リナルド号の艦長が病気になったため、軍艦は上海へ引き返し、曽国藩もメドハーストとの交渉を拒否しました。この状況に駐清公使のラザフォード・オールコックは、総理各国事務衙門に照会し、南京当局に対応を要求しました。

その後、メドハーストは4隻の軍艦を率いて再び南京に乗り込み、曽国藩の後任である両江総督馬新貽と交渉を行い、最終的に中国側はメドハーストの要求を受け入れることになりました。具体的には、揚州の地方官の罷免、損害賠償、教会と住宅の修復、教会保護、そして事件に関与した者の処罰が約束されました。

最終的に、メドハーストの軍艦2隻と300人の兵士が揚州に入り、手厚い歓迎を受けました。11月28日には教会の損害賠償が完了し、住宅も修復され、宣教師たちには揚州への帰還が要請されました。

事件の教訓

揚州教案は、単なる宗教対立にとどまらず、当時の中国社会における外国勢力への不信感、そして混乱した社会情勢が複雑に絡み合った事件でした。この事件は、西洋の進出が中国に与えた影響を象徴するとともに、外交交渉の重要性、そして宗教的・文化的な理解の必要性を示唆しています。

この事件以降、中国各地で同様の教案が頻発し、清朝末期の社会情勢を大きく揺るがすこととなりました。揚州教案は、中国と西洋の関係を考える上で、重要な歴史的事件の一つと言えるでしょう。

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