撃ちてし止まむ

撃ちてし止まむ

「撃ちてし止まむ」は、太平洋戦争中に大日本帝国で広く用いられたスローガンの一つです。これは、戦意を高揚させるための標語として、様々なメディアやプロパガンダに登場しました。

語源と意味

このスローガンの語源は、『古事記』に登場する久米歌にあります。久米歌は、戦いの勝利を祈願する歌であり、「撃ちてし止まむ」は、この歌の一節に由来します。

現代の日本語に訳すと、「（敵を）撃って戦いを止める」という意味になります。つまり、「敵を撃つまでは戦いを止めない」という強い決意を表しています。

歴史

古事記

『古事記』の中つ巻には、神武天皇が東征の際に、八十建や那賀須泥毘古を征伐する場面で、戦意を鼓舞するために久米歌が歌われたと記されています。この久米歌の一節が、「撃ちてし止まむ」の原典とされています。

近代

1942年（昭和17年）4月に発売された映画『空の神兵』には、「撃ちてし止まぬ大和魂」という表現が見られます。これは、「撃ちてし止まむ」の思想が、戦意高揚のために用いられ始めた初期の例と言えるでしょう。

1943年（昭和18年）に入ると、「撃ちてし止まむ」は、より積極的にプロパガンダの一環として用いられるようになりました。情報局が発行した雑誌『週報』では、「撃ちてし止まむ」の意味と意義について、1ページを割いて解説しています。

情報局が発行していたグラフ雑誌『写真週報』でも、「撃ちてし止まむ」を題材に、戦地や生産現場、銃後の様子を特集しました。これにより、「撃ちてし止まむ」のスローガンは、国民の間に広く浸透していきました。

一般の雑誌でも、『富士』や『少年倶楽部』、『婦人公論』などの表紙に「撃ちてし止まむ」があしらわれました。また、映画の冒頭に掲示されるスローガンも、「忠魂へ遺族援護の捧げ銃」から「撃ちてし止まむ」に変更されました。

1943年3月10日の陸軍記念日のポスターには、星条旗とユニオンジャックを踏む陸軍兵士と戦車と共に、「撃ちてし止まむ」と描かれました。このポスターは、陸軍省によって全国に配布され、一斉に掲示されました。東京の日本劇場外壁には、銃を構える兵士と手榴弾を投げる兵士の写真に「撃ちてし止まむ」と書かれた壁画が掲げられ、陸軍記念日当日には、壁画の前で軍楽隊によって『愛国行進曲』が演奏されました。

詩人の杉浦伊作は、1943年に『撃ちてし止まむ』と題する詩集を発表しました。この詩集には、同名の詩や神武天皇の御製、高村光太郎による詩序が収録されています。

関連項目

八紘一宇：大東亜共栄圏を正当化するためのスローガン
国民決意の標語：1942年に大政翼賛会が募集、提唱したスローガン

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