サン・ファン・バウティスタ号

サン・ファン・バウティスタ号は、17世紀初頭の日本、江戸時代に仙台藩によって建造された歴史的なガレオン船です。この船は、伊達政宗が派遣した慶長遣欧使節の航海に用いられ、太平洋を横断しました。船名はスペイン語で「洗礼者聖ヨハネ」を意味し、その壮大な航海は、日本とヨーロッパの交流史において重要な位置を占めています。

建造の背景

仙台藩主、伊達政宗は、スペインとの貿易を目的とし、宣教師ルイス・ソテロと家臣の支倉常長をスペインとローマへ派遣しました。これが慶長遣欧使節です。この使節の派遣に先立ち、1611年頃から海外貿易と造船の構想がありました。この計画を実現するために建造されたのが、サン・ファン・バウティスタ号です。

造船契約

仙台藩は、スペイン人セバスティアン・ビスカイノとの間で造船契約を結びました。ビスカイノはスペイン大使として日本を訪れていましたが、帰国途中に難破し、日本に滞在していました。契約では、政宗が造船費用と船員の俸給を負担し、ビスカイノが船の指揮を執ること、またビスカイノの商品の積み込みを許可することなどが定められました。仙台藩からは秋保頼重と河東田親顕が船奉行として、幕府からは向井忠勝が協力しました。船の建材は、気仙郡、磐井郡、江刺郡、本吉郡から調達されました。シピオーネ・アマチの記録によると、船の建造には大工800人、鍛冶700人、雑役3000人が関わり、45日間を要したとされています。

造船地

サン・ファン・バウティスタ号の建造地は、牡鹿郡月浦とされています。これは史料「真山記」に「遠島月浦」とあることによります。しかし、石巻市雄勝町雄勝呉壺を建造地とする説もありますが、月浦説を覆すほどの根拠はないとされています。

航海

第一回航海

1613年10月28日、サン・ファン・バウティスタ号は、メキシコのアカプルコを目指して月浦を出航しました。乗組員は180名余りで、これに加えて商人、使節団員、幕府関係者、南蛮人が乗船しました。航海には、ウルダネータの航路が用いられ、ベニト・デ・パラシオなどのスペイン人航海士が操船しました。船は太平洋を横断し、1614年1月25日にアカプルコに到着しました。しかし、サン・ファン・バウティスタ号の到来はスペイン側から歓迎されず、長期間抑留されました。その後、日本側の帰国要請が認められ、1615年4月にスペイン国王使節を乗せて出航し、同年8月15日に浦賀に帰港しました。

第二回航海

1616年9月30日、ルイス・ソテロの要求でサン・ファン・バウティスタ号は再びアカプルコを目指して出航しました。しかし、航海中に悪天候に見舞われ、多くの水夫が亡くなりました。船は1617年2月23日にロス・モリネスに到着し、その後アカプルコへ航行しました。この時、日本とスペインの関係は冷え切っており、船の再来は歓迎されませんでした。さらに、船の損傷が激しく修理が必要となりました。帰路、ヨーロッパから戻ったソテロと支倉を乗せ、1618年4月2日にアカプルコを出航し、同年8月10日にマニラに到着しましたが、サン・ファン・バウティスタ号はスペインに買収されてしまいました。

その後

サン・ファン・バウティスタ号のその後は不明で、スペイン艦としてミンダナオ島方面へ向かったという説があります。近年では、奴隷貿易に関わっていたという説も提唱されています。使節団は、1620年8月下旬に長崎へ帰国し、9月20日に仙台へ到着しました。しかし、日本国内の情勢は大きく変化し、キリシタン弾圧が始まるなど鎖国に向かっており、使節の目的であった貿易協定は実現しませんでした。支倉常長は帰国後まもなく病死し、ソテロは密入国により処刑されました。

復元船

復元計画

宮城県では、昭和末期からサン・ファン・バウティスタ号の復元計画が検討されていました。1990年末に復元準備会が設立され、県民運動として5億6千万円の募金が集まりました。正確な設計図は残っていませんでしたが、仙台藩の史料に基づいて現代の造船技術でシミュレーションが行われました。史料に記された「一間」の長さは、仙台藩の尺貫法に基づき、6尺5寸とされました。

建造と公開

復元船は、1992年4月17日に起工式が行われ、1993年5月22日に進水式を迎えました。復元費用は約17億円でした。その後、仙台港や気仙沼港、東京湾で公開されました。1996年8月10日には、石巻市渡波に開館した「宮城県慶長使節船ミュージアム」に係留・展示されました。

東日本大震災の影響

2011年3月11日の東日本大震災では、津波によりドック棟が破壊され、多くの展示物が流失しました。復元船は津波を乗り越えたものの、暴風によりマストが破損しました。その後、宮城県による修復が行われ、2013年11月にサン・ファン館は再オープンしました。

解体と後継船

2016年の調査で船体の歪みや腐食が確認され、寿命は5年ほどとされました。2017年3月から乗船が禁止され、2021年3月に展示を終了し、解体が決定しました。市民団体からの訴訟があったものの、宮城県は2021年11月から解体工事を開始しました。解体中に映画撮影のため一部が改造されたこともありました。

解体後、2022年度から2023年度にかけて、4分の1サイズのFRP製後継船が建造され、2024年 10月26日にリニューアルオープンする予定です。

まとめ

サン・ファン・バウティスタ号は、日本の歴史における重要な出来事である慶長遣欧使節を支えた船です。その建造から航海、復元、そして解体までの歴史は、日本と西洋の交流史、そして技術の進歩を物語る貴重な証拠となっています。復元船の解体は残念ですが、後継船の建造により、その歴史は語り継がれていくでしょう。

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