政略論

政略論（Discorsi）

『政略論』（せいりゃくろん、原題：Discorsi sopra la prima deca di Tito Livio）は、ルネサンス期の政治思想家ニッコロ・マキャヴェッリによって1517年に完成された政治学の重要な古典です。本書は、古代ローマの歴史家リウィウスの著作『ローマ建国史』の最初の10巻を参照しながら、共和政のあり方について深く考察した3巻構成の著作です。日本では、『ローマ史論』、『リウィウス論』、『ディスコルシ』などの名でも知られています。

概要

マキャヴェッリは、フィレンツェ共和国での失脚後、1513年に隠遁生活に入り、その中で本書の執筆に着手しました。同じ時期には、彼の代表作の一つである『君主論』も執筆されています。『政略論』は、マキャヴェッリの死後、1531年に出版されました。

本書は、リウィウスの『ローマ建国史』のうち、15世紀に発見された最初の10巻に焦点を当てています。マキャヴェッリは、この古代ローマの歴史を参照しながら、共和政の政治構造や運営方法について詳細な議論を展開しました。彼は、政体を君主政、貴族政、民衆政、僭主政、寡頭政、衆愚政の6つに分類し、それぞれの政体が堕落する可能性を指摘しました。

マキャヴェッリは、これらの政体の特徴を兼ね備えた複合的な政体こそが理想であると主張しました。彼は、古代ローマの共和政をその模範として位置づけ、歴史的事実に基づいて具体的な政治のあり方を考察しました。彼の分析は、現実主義的な政治思想を基盤としており、共和政がいかに運営されるべきかを詳細に示しています。

本書は、単なる歴史研究にとどまらず、政治体制の構造や運営に対する深い洞察を提供しています。マキャヴェッリは、歴史から学び、現実の政治に応用することの重要性を説き、読者に政治の本質を考えさせる機会を与えます。

『君主論』との関連

『政略論』における共和主義的な政治観と、マキャヴェッリのもう一つの代表作である『君主論』に見られる君主制擁護の視点との間には、様々な解釈が存在します。この矛盾とも取れる観点について、多くの研究者が議論を重ねてきました。この点についての議論は、マキャヴェッリの政治思想の多様性と複雑さを浮き彫りにするものです。

日本語訳

本書は、日本語訳も複数存在します。

大岩誠訳『ローマ史論』 岩波文庫（全3巻）、1950年、復刊1990年ほか
永井三明訳「政略論」（『世界の名著 マキアヴェリ』、会田雄次責任編集、中央公論社、初版1966年）
改訳版『マキァヴェッリ全集2 ディスコルシ』 筑摩書房、1999年
再訂版『ディスコルシ 「ローマ史」論』 ちくま学芸文庫、2011年

参考文献

* 鹿子生浩輝「ローマの再生―マキァヴェッリの『リウィウス論』とルネサンス・イタリア」（『政治研究』47、2000年、p57-83）


『政略論』は、政治思想史における重要な著作であり、現代においてもその思想は多方面に影響を与え続けています。本書を読むことで、政治の根本的な構造やその運営について、深く考察することができるでしょう。

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