教父学

教父学：初期キリスト教思想の探求

教父学（Patrology, Patristics）は、初期キリスト教において重要な役割を果たした教父たちの生涯、著作、思想を研究する学問分野です。聖師父学とも呼ばれ、教父たちの著作を渉猟し、その思想体系や神学的貢献を解明することを目的としています。教父文献学と教父研究という訳語も存在します。

教父学の起源は古く、4世紀のエウセビオスの『教会史』やヒエロニムスの『著名者列伝』などにその端を見ることができます。しかし、学問としての確立は17世紀以降であり、ドイツのルター派神学者ヨハン・ゲルハルトが『Patrologia』を著したことが大きな契機となりました。ゲルハルトの研究は教父の伝記と著作に焦点が当てられていましたが、現代の教父学は教父たちの思想そのものを中心に研究を進めています。これは17世紀以来の「教父神学」という学科名と範囲がほぼ一致しています。

教父の定義は時代や宗派によって異なり、明確な境界線は存在しません。一般的には、東方教会では2世紀初頭から7回の公会議（325年～787年）の時期までの教父が対象となり、ダマスカスのヨハネ（670年頃～750年頃）までが含まれます。一方、西方教会では、グレゴリウス1世（540年頃～604年）またはセビリアのイシドルス（560年頃～636年）までが対象とされることが多く、東方教会よりも期間が短くなっています。中には、中世の神学者まで含める広い定義を用いる場合もありますし、正教会では、教父は過去の人物だけでなく、未来にも現れる可能性があるという考え方もあります。

20世紀に入ると、ロシア革命後の亡命ロシア人神学者、ゲオルギー・フロローフスキーが、1936年のアテネの正教神学会議において聖師父（教父）の伝統への回帰を訴えました。この提唱は、正教神学に大きな転換をもたらし、教父研究が盛んに行われるようになりました。フロローフスキーは「新教父学的総合」を提唱し、その後の新教父学に大きな影響を与えました。彼に続く重要な神学者としては、パーヴェル・エフドキーモフ、ウラジーミル・ロースキー、オリヴィエ・クレマン、ジョン・メイエンドルフ、アレクサンドル・シュメーマンなどが挙げられます。彼らはフロローフスキーの思想を継承、発展させ、現代の正教神学に多大な貢献をしました。

教父学研究において、教父の著作の校訂版は重要な役割を果たします。特に、ジャック・ポール・ミーニュの『教父学全集』（Patrologiae cursus completus）は、1844年から1866年にかけて刊行された膨大なコレクションとして知られています。この全集には、『ギリシア[[教父]]全集』（Patrologia Graeca、161巻）と『ラテン[[教父]]全集』（Patrologiae Latina、221巻）が含まれ、教父学研究の基礎文献として現在も広く利用されています。

教父学は、初期キリスト教思想を理解するための不可欠な学問分野であり、現代のキリスト教神学にとっても重要な意義を持ち続けています。教父たちの著作を通して、キリスト教信仰の多様な側面や歴史的発展を深く探究することができます。また、彼らの思想は、現代社会の様々な問題を考える上でも示唆に富むものとなっています。

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