新しい世界 (アルバム)

新しい世界（A Whole New Thing）

『新しい世界』は、アメリカのバンド、スライ&ザ・ファミリー・ストーンにとって記念すべき初のスタジオ・アルバムとして、1967年に発表されました。

制作背景

バンド結成の中心となったのは、以前ストーナーズというグループで活動していたスライ・ストーンと、ホーン奏者のシンシア・ロビンソンです。彼らは1967年にスライ&ザ・ファミリー・ストーンを結成すると、サンフランシスコを拠点とする地元のレコードレーベル、Loadstoneからデビュー・シングル「I Ain't Got Nobody」をリリースします。

このシングルは、残念ながら本作『新しい世界』には収録されませんでしたが、2013年に発売されたバンドのボックス・セット『Higher!』において、B面に収録されていたオーティス・レディングのカヴァー曲「アイ・キャント・ターン・ユー・ルース」と共に日の目を見ることになります。

Loadstoneからのシングルリリースは、彼らにとって大きな転機となりました。このシングルがきっかけとなり、バンドは名門レーベル、エピック・レコードとの契約を勝ち取ることに成功し、本作の発表へと繋がっていきます。

音楽性と評価

本作はスライ&ザ・ファミリー・ストーンの後の代表作と比較すると、まだ洗練されてはいないものの、彼らが既に独自の音楽性を確立しようとしていたことを示しています。

例えば、収録曲の一つである「アンダードッグ」は、フランスの童謡「フレール・ジャック（かえるの合唱）」をアレンジした印象的なファンファーレで幕を開けます。このような遊び心と実験性は、その後の彼らの音楽の特徴ともなっていきます。

オールミュージックの評論家、リッチー・アンターバーガーは、本作に5点満点中3点を与え、「後の作品ほどファンキーでもサイケデリックでもない」としながらも、本作におけるスライ・ストーンの作詞・作曲能力を高く評価しています。

アンターバーガーは、スライがこの初期の段階から既に「馬鹿げていながらも思慮深い、ソウルの常識を超えた歌詞」を用いていたこと、そして「ロックの要素も幾分取り入れ」、冒険的で予測不能な楽曲構造を生み出していた点を指摘しています。これは、単なるファンクやソウルの枠に留まらない、彼らのミクスチャー志向の萌芽が既に現れていたことを示唆しています。

商業的成績とジャケット

残念ながら、本作は商業的な成功を収めることはできませんでした。アメリカの主要なアルバムチャートであるBillboard 200入りも果たせず、広く知られるには至りませんでした。

アルバムのジャケットデザインには変遷があります。発表当時のオリジナルLP盤のジャケットとは異なるデザインが、1970年の再発盤で使用されました。その後、1995年に発売されたCDリマスター盤は、この1970年盤のジャケットデザインを採用しています。しかし、2007年のCDリマスター盤では、再びオリジナルのLPジャケットデザインが使用されることとなりました。

収録曲

全収録曲は、シルヴェスター・ステュワート、すなわちスライ・ストーンによって書かれています。

1. アンダードッグ "Underdog" - 4:00
2. イフ・ディス・ルーム・クッド・トーク "If This Room Could Talk" - 3:13
3. ラン・ラン・ラン "Run, Run, Run" - 3:06
4. ターン・ミー・ルース "Turn Me Loose" - 1:56
5. レット・ミー・ヒア・イット・フロム・ユー "Let Me Hear It from You" - 3:35
6. アドバイス "Advice" - 2:23
7. アイ・キャンノット・メイク・イット "I Cannot Make It" - 3:20
8. トリップ・トゥ・ユア・ハート "Trip to Your Heart" - 3:43
9. アイ・ヘイト・トゥ・ラヴ・ハー "I Hate to Love Her" - 3:32
10. バッド・リスク "Bad Risk" - 3:05
11. ザット・カインド・オブ・パーソン "That Kind of Person" - 4:28
12. ドッグ "Dog" - 3:03

1995年版ボーナス・トラック:

13. ホワット・ウッド・アイ・ドゥ "What Would I Do" - 4:07

2007年版ボーナス・トラック:

13. アンダードッグ "Underdog (Single version)" - 3:06
14. レット・ミー・ヒア・イット・フロム・ユー "Let Me Hear It from You (Single version)" - 3:30
15. オンリー・ワン・ウェイ・トゥ・アウト・オブ・ディス・メス "Only One Way Out of This Mess" - 3:57
16. ホワット・ウッド・アイ・ドゥ "What Would I Do" - 4:07
17. ユー・ベター・ヘルプ・ユアセルフ "You Better Help Yourself (Instrumental)" - 2:19

参加ミュージシャン

本作の録音には以下のメンバーが参加しました。

スライ・ストーン - ボーカル、キーボード、ギター
フレディ・ストーン - ギター、ボーカル
ラリー・グラハム - ベース、ボーカル
グレッグ・エリコ - ドラムス
シンシア・ロビンソン - トランペット
ジェリー・マルティーニ - サックス

『新しい世界』は、商業的な成功こそ得られなかったものの、スライ&ザ・ファミリー・ストーンという革新的なバンドの出発点として、その後の彼らの音楽性を予告する重要な作品と言えるでしょう。

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