スライ・ストーン

アメリカ合衆国テキサス州デントン生まれ（1943年 3月15日 - ）、本名シルヴェスター・スチュアート（Sylvester Stewart）。ミュージシャン、作曲家、レコードプロデューサーとして、特にバンド「スライ＆ザ・ファミリー・ストーン」のリーダーとして世界的に知られています。1960年代から70年代にかけて、彼はソウルやファンク音楽の隆盛に大きな足跡を残しました。その功績は高く評価され、1993年にはグループの一員としてロックンロール・ホール・オブ・フェイム入りを果たしています。また、著名な音楽雑誌「ローリング・ストーン」や「Q誌」の「歴史上最も偉大な100人のシンガー」にもそれぞれ78位、69位にランクインしています。

幼少期とキャリアの始まり

シルヴェスター・スチュアートは、テキサス州デントンで五人兄弟姉妹の二番目として生まれました。音楽に囲まれた環境で育ち、父はギターを奏で、母は教会でゴスペルを歌っていました。後に一家は西海岸のカリフォルニア州ヴァレーホへ移住。彼はヴァレーホで、弟フレディ、妹ローズ、妹ヴィエタと共に「ザ・スチュアート・フォー」を結成し、教会でゴスペルを歌い、1952年にはシングルレコードもリリースしました。姉ロレッタを除く兄弟姉妹は、後に全員「ストーン」姓を名乗り、スライ＆ザ・ファミリー・ストーンの中核メンバーとなります。

青年期には複数の楽器、特にギターを習得し、高校時代から様々なバンドに参加しました。その一つであるドゥーワップグループ「ザ・ヴィスケインズ」は、シルヴェスターとフィリピン系の友人を除く全員が白人という、当時のアメリカでは珍しい人種混合バンドでした。彼は短期大学で音楽理論や作曲を学び、この経験が後に彼の革新的なバンドの基盤となります。同時期には「ダニー・スチュアート」名義でのソロ活動や、ボビー・フリーマンのヒット曲「カモン&スウィム」の提供なども行いました。

DJ、プロデューサー、そしてバンド結成

1960年代中期には、オークランドのラジオ局KSOL（後にKDIA）でディスクジョッキーを務め、傍らオータムレコードでプロデューサーとしても活動。ボー・ブラメルズや、後にジェファーソン・エアプレインで活躍するグレース・スリックが在籍したザ・グレイト・ソサエティなどを手がけました。「スライ・ストーン」と名乗るようになった彼は、1966年にはトランペット奏者のシンシア・ロビンソンらと共に「ザ・ストーナーズ」を結成。そして1966年末、シンシアに加え、弟のフレディ、ベーシストのラリー・グラハム、ドラマーのグレッグ・エリコ、サックス奏者のジェリー・マーティーニらと、後に伝説となる「スライ＆ザ・ファミリー・ストーン」を結成します。その後、妹のローズがキーボードとヴォーカルで加わり、さらに兄弟姉妹のヴィエタとメアリー・マクリアリー、エルヴァ・ムートンから成る女性コーラスグループ「リトル・シスター」もバックヴォーカルとして参加しました。スライ自身は、ギター、ピアノ、ハーモニカなど複数の楽器を担当しました。彼はDJとしても手腕を発揮し、KSOLをソウルミュージック専門局へと成長させました。

全盛期と成功、そして転落

1967年のデビューアルバム『新しい世界』は商業的に振るいませんでしたが、シングル「ダンス・トゥ・ザ・ミュージック」が初のヒットとなり、バンドは注目を集め始めます。1968年の3rdアルバム『ライフ』も大きなヒットには至りませんでしたが、同年後半に発表したシングル「エヴリデイ・ピープル」が翌1969年にビルボードの主要チャート両方で首位を獲得し、バンドは一躍スターダムにのし上がりました。

続く4thアルバム『スタンド!』（1969年）は300万枚を超える大成功を収め、ここから生まれたシングル「ホット・ファン・イン・ザ・サマータイム」、「サンキュー（フォレッティンミー・ビー・マイス・エルフ・アギン）」、「エブリボディ・イズ・ア・スター」も次々とヒットチャート上位に食い込み、スライ＆ザ・ファミリー・ストーンは時代の寵児となります。同年8月のウッドストック・フェスティヴァルでの伝説的なパフォーマンスは、映画『ウッドストック』にも収められ、バンドの地位を不動のものにしました。

しかし、成功の頂点でスライは重圧に苛まれるようになります。レコード会社からのさらなるヒットへの期待、ブラックパンサー党など黒人解放運動からの政治的要求（特に白人メンバーの追放圧力）、そしてメンバー間の軋轢などが彼の精神を疲弊させました。この混乱は1971年の5thアルバム『暴動』に色濃く反映されていると言われています。メンバーが同時に演奏することを拒否したため、多くの楽曲がオーバーダビングで制作され、スライ自身が多くの楽器演奏とリードヴォーカルを担当しました。このアルバムはファンクの金字塔と評され、シングル「ファミリー・アフェア」もヒットしましたが、バンド内の亀裂は深まりました。ドラマーのグレッグ・エリコが脱退し、アンディ・ニューマークが加入。長年の友人であったラリー・グラハムも解雇され、ラスティ・アレンが後任となりました。それでも、アルバム『フレッシュ』（1973年）とシングル「イフ・ユー・ウォント・ミー・トゥ・ステイ」は高い評価を得ます。しかし、1974年の『スモール・トーク』ではスライの比重がさらに増し、バンドとしての結束は弱まっている印象を与えました。また、コンサートでのドタキャンが相次ぎ、バンドはプロモーターからの信頼を失っていきます。そして1975年1月、ラジオシティ・ミュージックホールでの公演失敗を機に、スライ＆ザ・ファミリー・ストーンは事実上の解散となりました。

解散後の活動と晩年

バンド解散後、スライはソロ名義や再びスライ＆ザ・ファミリー・ストーン名義で数枚のアルバムをリリースしましたが、かつての勢いを取り戻すことはできませんでした。ファンカデリックとの共演作『エレクトリック・スパンキング・オブ・ウォー・ベイビーズ』（1981年）など、散発的な活動はありましたが、キャリアは下降線をたどります。ボビー・ウーマックとのツアーや、他のアーティスト作品へのゲスト参加などはありましたが、1987年頃からは次第に公の場から姿を消し、隠遁生活に入りました。

しかし、2006年のグラミー賞授賞式では、トリビュート演奏中のステージに突如現れ、「アイ・ウォント・トゥ・テイク・ユー・ハイヤー」の一部を演奏するというサプライズで音楽ファンを驚かせました。この時の奇抜な出で立ち（巨大な金色のモヒカン、銀ラメのスーツ、SLYベルトバックルなど）と、直前にバイク事故で腕にギプスをしていたエピソードは、彼の孤高ぶりが健在であることを示しました。その後も散発的にサポートバンドや旧メンバーとの短時間のライブに参加し、往年の力強い歌声を聞かせることもありました。

私生活と経済的苦境

私生活では、1974年に女優キャスリーン・シルヴァと結婚しましたが、僅か5ヶ月後に離婚。マディソン・スクエア・ガーデンでのコンサート中に2万人以上の観衆が見守る中挙式したことは大きな話題となりましたが、離婚は飼い犬が息子シルヴェスター・ババ・アリ・スチュアート・ジュニアを襲ったことが一因とされています。スライにはジュニアの他、シンシア・ロビンソンとの間にシルヴェット・ファン・ロビンソン、そしてノヴィーナ・カーメル（ノヴィ）という娘がいます。ノヴィーナはミュージシャンとして活動しています。

波乱は私生活に留まらず、経済的な問題も深刻でした。2009年のドキュメンタリー映画では、元マネージャーとの契約トラブルにより収入源を失い、生活保護を受けながらホテルを転々とする苦境が報じられました。2010年にはこの元マネージャーを相手取り、詐欺や横領、商標の不正利用などを理由に巨額の損害賠償を求める訴訟を起こしました。訴訟中に再びホームレス状態となり、キャンピングカーで生活していることも報じられるなど、困難な状況が続きましたが、2015年1月、裁判はスライ側の勝訴となり、元マネージャーに対し約6億円の損害賠償が命じられました。

スライ・ストーンは、ソウル、ファンク、ロックを融合させたサウンドで音楽史に多大な影響を与えた紛れもない天才です。しかし、その輝かしいキャリアの裏では、プレッシャー、人間関係の軋轢、そして経済的な困窮といった苦難に直面し、波乱に満ちた生涯を送っています。彼の音楽は今なお多くのアーティストに影響を与え続けています。

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