新撰亀相記

新撰亀相記（しんせんきそうき）

『新撰亀相記』は、平安時代に成立した卜占書で、神祇官に所属していた卜部氏の伝承や職掌に関する記述をまとめたものです。書名にある「亀相」とは、亀卜において亀の甲羅のひび割れの状態から吉凶を判断する様子を指しています。この書は、古代の卜占や神事のあり方を現代に伝える貴重な資料として、研究者の間で重視されています。

概要

この書は、天長7年（830年）に卜部遠継によって編纂されたとされています。ただし、この点については異説もあります。全4巻（甲巻、乙巻、丙巻、丁巻）で構成されていましたが、現存するのは甲巻のみです。甲巻は、前半部分で卜占や神事に関する伝承を扱い、後半部分では具体的な卜占の作法や方法を解説しています。内容を詳しく見ていくと、『古事記』や祝詞との記述の一致が見られるほか、卜部氏独自の伝承が記されている点が特徴的です。

写本

現存する写本の中で最も古いものは、元和6年（1620年）に梵舜によって書写されたもので、東京大学宗教学研究室に所蔵されています。この写本は、他の写本の祖本であると考えられています。

内容

『新撰亀相記』の構成は、本文中の目録によると以下の通りです。

甲巻：伊佐諾・伊佐波両神が生んだ淤能己侶島（おのころじま）に関する記述など、30条。
乙巻：地に関する事柄。
丙巻：天に関する事柄。
丁巻：神人（神と人）の兆候と三つの卦に関する記述。

現在確認できる写本は甲巻のみですが、現存する写本には乙巻・丙巻・丁巻の内容も一部含まれているため、実際には目録通りではない可能性や、失われた巻ではさらに詳しい内容が書かれていた可能性も指摘されています。

関連文献

『新撰亀相記』の研究は、多くの研究者によって行われており、影印本、翻刻、校本など様々な形で刊行されています。

影印：『東大本新撰龜相記梵舜自筆』（大学書林、1957年）。
翻刻：秋本吉徳 「新撰亀相記の研究 : 翻刻之部」（『清泉女子大学紀要』第26号、清泉女子大学、1978年）。
校本：「新撰亀相記」（『海部氏系圖・八幡愚童記・新撰龜相記・高橋氏文・天書・神別記』、神道大系編纂会、1992年）。
校本・研究：工藤浩 『新撰亀相記の基礎的研究 : 古事記に依拠した最古の亀卜書』（日本エディタースクール出版部、2005年）。
校本：「新撰亀相記」（『古代氏文集 : 住吉大社神代記・古語拾遺・新撰亀相記・高橋氏文・秦氏本系帳』、山川出版社、2012年）。

参考文献

鎌田純一「新撰亀相記」『国史大辞典』（吉川弘文館）。
早川万年「新撰亀相記」『日本古代史大辞典』（大和書房、2006年）。
工藤浩『新撰亀相記の基礎的研究 : 古事記に依拠した最古の亀卜書』（日本エディタースクール出版部、2005年）。
* 沖森卓也・佐藤信・矢嶋泉編著 編「新撰亀相記」『古代氏文集 : 住吉大社神代記・古語拾遺・新撰亀相記・高橋氏文・秦氏本系帳』（山川出版社、2012年）。

『新撰亀相記』は、古代日本の宗教観や卜占の文化を理解する上で、欠かせない資料の一つと言えるでしょう。

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