新格闘プロレス

新格闘プロレス

新格闘プロレス（しんかくとうプロレス）は、1994年に活動した日本のプロレス団体である。前年に新日本プロレスのユニット「平成維震軍」を円満離脱した空手家の青柳政司が、新たな理念を掲げて設立した。

設立と理念

団体は1994年1月に発足し、同年3月11日に後楽園ホールで旗揚げ興行を開催した。その活動の根幹には「勝負論の追求」という明確な旗印があり、従来のプロレスにおけるエンターテイメント性よりも、より実戦に近い「真剣勝負」を前面に押し出すことを目指した。これは、当時の格闘技界の隆盛に対応し、プロレスの立ち位置を再定義しようとする試みであった。

修斗との対抗戦と挫折

「真剣勝負」路線を推進するため、団体は総合格闘技の修斗と業務提携を結び、公式な対抗戦を実施した。しかし、この試みは新格闘プロレスにとって極めて厳しい結果に終わる。対抗戦に出場した所属選手は、修斗の選手に対し全てが秒殺されるという、一方的な敗北を喫したのである。この惨敗は、団体の掲げる「真剣勝負」のイメージを大きく損なうだけでなく、当時既に説得力を失いつつあったものの、なお一部で唱えられていた「プロレスラーが最強である」という言説に決定的な打撃を与えた。後の修斗関係者からは、この対抗戦を契機にプロレスに対する幻想が打ち砕かれた、との述懐も聞かれたほどである。

エースの離脱と混乱

旗揚げ直後の4月には、団体の中心選手であった青柳政司自身が、木村浩一郎との試合に敗れるという事態が発生する。青柳はこの敗戦を受けて、「もう一度リベンジし、次も敗れた場合は引退する」と公言した。しかし、彼は結局再戦を行うことなく、一方的に団体を退団してしまう。エースの突然の離脱は、団体に大きな混乱をもたらした。

さらに5月には、日本で開催されたWWF（現：WWE）のマニアツアーに、勝負論追求を掲げるはずの青柳が参戦するという出来事があった。エンターテイメント色が強いWWFへの参加は、青柳の従来の理念との矛盾として多くの批判を招いた。ただし、この行動には、WWFが新たに格闘技部門を立ち上げるという情報を得て、それに加わるために自身を売り込んだ側面もあったとも伝えられている。

経営の悪化と終焉

青柳の退団に加え、修斗との提携も解消されたことにより、設立当初から苦しかった団体の経営状況はさらに悪化した。残された所属選手たちは、細々と興行を継続しようと試みたが、集客や運営の維持は困難を極めた。そして、10月には事実上の活動停止状態となり、自然消滅という形で一旦力尽きる。

最後の抵抗と解散

しかし、同年11月には、三重県松阪市総合体育館で特別興行を開催するという動きがあった。この興行は、全試合を過酷な有刺鉄線金網デスマッチ形式で行うという、団体の再起を懸けたかのような内容であった。興行終了後、リング上には残った所属選手たちが集まり、「新生新格闘プロレスとして再出発する」と、ファンに向けて再興を強くアピールした。

この勢いを繋ぐべく、12月には岩手県営体育館での興行が予定されていた。しかし、この計画は最終的に中止となり、11月の特別興行が団体の最後の活動となった。再出発のアピールも虚しく、新格闘プロレスは同年11月をもって完全に解散した。

短期間の活動ながら、新格闘プロレスは「真剣勝負」路線の追求、修斗との異種格闘技戦、そしてエースの不可解な行動など、その特異な存在感を日本のプロレス史に残したと言える。

主な所属選手・スタッフ

所属選手:
青柳政司、木村浩一郎、平野勝美、高山秀男（現：BADBOY非道）、藤田豊成（現：マグニチュード岸和田）、山田圭介（現：バッファロー）、矢口壹琅（現：雷神矢口）、高智政光、板倉弘（現：板倉広）、茂田信吾、秋山文生、木川田潤、大角比呂詩（現：新宿鮫）など
スタッフ:
レフェリー：松井幸則

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