方違え

方違え（かたたがえ）とは

方違えは、平安時代に陰陽道の影響を受けて生まれた、独特な風習です。これは、特定の方角に存在する神々を避けるために、目的地へ直接向かわず、一旦別の方角へ移動し、そこで一夜を過ごしてから改めて目的地へ向かうというものでした。方角の吉凶を占い、悪い方角を避けることで、災厄を避けようとする思想が根底にありました。方忌み（かたいみ）とも呼ばれます。

方違えの基本

方違えの基本的な考え方は、外出や帰宅の際に、目的地の方角に特定の方位神がいる場合に、その神がいる方角を避けて移動するというものです。

例えば、自宅が西の方角にあり、そこへ帰ろうとする際、もし西の方角に天一神という神がいるとします。この場合、直接西へ帰ると天一神のいる方角を犯すことになります。そこで、一旦南西の方角にある知人宅などで一夜を過ごし、翌朝、別のルートで北西方向から自宅へ帰ることで、直接西へ向かうことを避けます。これは、方角の悪い影響を避けるための工夫です。

また、建物の工事を行う際にも方違えが行われました。工事場所が家の中心から見て悪い方角にあたる場合、一旦別の場所で宿泊し、忌を移してから工事を始めました。

しかし、方位神には、数日で移動するものもいれば、長期間同じ場所に留まるものもいます。天一神のように数日で移動する神であれば比較的対処しやすいのですが、金神のように1年間同じ方角に留まる神の場合、その方角で工事を行いたい場合には、その年の立春に一度方違えを行うことで、当分は方違えをせずに済むとされました。

方違えの対象となる方位神

方違えの対象となる主な方位神は、以下の5つです。

1. 天一神（てんいちじん、てんいつじん、なかがみ）: 5日間同じ方角に留まります。
2. 太白（たいはく）: 毎日方角が変わります。
3. 大将軍（だいしょうぐん）: 3年間同じ方角に留まりますが、5日単位で別の場所へ移動します（遊行）。
4. 金神（こんじん）: 1年間同じ方角に留まります。
5. 王相（おうそう）: 王と相が1ヶ月半ずつ同じ方角に留まり、続けて訪れるため、合計3ヶ月間、一つの方向が塞がることになります。

実際の方違え

特に天一神は5日間同じ方角に留まるため、その方角が自宅と職場の間などにあると非常に不便でした。そのため、実際には天一神がその方角に移動する最初の日に方違えをすれば、その5日間は問題ないとされました。

大将軍・金神・王相のように長期間同じ方角に留まる神に対しては、遊行の最初の日に一度方違えをしただけでは不十分とされ、その期間中、以下のような規則で何度も方違えを行う必要がありました。

自宅からの移動、または自宅への移動、および自宅での造作の場合

遊行の最初の日に一度方違えを行う。
その後、数日間は毎日方違えを行う。
一定期間が経過したら再び方違えを行う。

自宅以外の場所から自宅以外の場所への移動の場合

遊行の最初の日に一度方違えを行う。
一定期間（大将軍は45日、王相は15日）が経過したら再び方違えを行う。

自宅が絡む移動や造作は、より厳格な方違えが求められました。このため、より簡略化された方違えの方法も考え出されました。

「自宅」の概念を利用した方違えの簡略化

自宅が絡む方違えは手間がかかるため、自宅以外の場所を一時的に「自宅」とみなすことで、方違えの手間を減らす方法が考案されました。具体的には、各神の遊行する日の前日の夕方に、方角的に問題のない場所に移動し、そこで一晩過ごすことで、そこを「自宅」と宣言します。これにより、方違えの頻度を45日または15日に1回に減らすことができました。

この「自宅」として利用される場所として、寺院がよく使われました。平安時代後期にこの方式の方違えが普及すると、京都の寺院は次々と立派になっていったと言われています。大将軍・金神・王相が遊行するのは春分の日であったため、春分の日とそこから15日単位の日（すなわち二十四節気）には、京都のあちこちで貴族が移動する光景が見られました。

方違えは、単なる迷信的な風習ではなく、当時の社会や文化を反映したものであり、その複雑なルールや慣習は、人々の生活に深く根付いていました。

関連項目

方違神社
寒川神社
城南宮

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