日方 (海南市)

和歌山県海南市の北西部に広がる日方（ひかた）は、紀勢本線が通過し、日方川が流れる地区です。ここはかつて、明治期に独立した自治体である名草郡日方村として誕生し、後に海草郡日方町へと発展した歴史を持つ地域です。昭和9年（1934年）には周辺町村との合併を経て海南市の一部となり、現在に至ります。本稿では、この日方地区、そしてかつて存在した海草郡日方町について詳述します。

地理的に見ると、日方は海南市の中心部からもほど近い場所に位置し、西側は船尾、北側は黒江や岡田、東側は井田、そして南側は名高、築地、藤白といった地区と境を接しています。地区の内部には、馬場町一丁目から三丁目、および山崎町一丁目から三丁目といった町名も含まれています。地区の東西を日方川が流れ、北東方向には城ヶ峰がそびえるなど、変化に富んだ地形が見られます。主要な交通路としては、地区を南北に縦断する国道42号線と国道370号線があり、特に国道370号線からは和歌山県道18号海南金屋線が日方川に沿うように東へと分岐しています。

日方地域の歴史は古く、室町時代には既に三上荘大野郷の一部として日方村の名が見られます。戦国時代の天正5年（1577年）には、織田信長による紀州攻めの際にこの地が戦場となるなど、歴史の大きな出来事にも関わってきました。幕末期には名草郡日方浦として記録されており、「旧高旧領取調帳」によれば和歌山藩の領地でした。江戸時代には里之町、南之町、御門之町、池之谷町、今市町といった町割りも存在していました。

明治維新後の変革期、明治4年7月14日（1871年8月29日）の廃藩置県により、日方浦は和歌山県の管轄下に入ります。明治の初め頃には、隣接する神田浦を合併し、地域としてのまとまりを強めました。そして、明治22年（1889年）4月1日に施行された町村制によって、日方浦は単独で自治体を形成し、名草郡日方村として新たな一歩を踏み出します。さらに明治29年（1896年）4月1日には、村から町へと昇格し、同時に所属郡も海草郡に変更となり、海草郡日方町が誕生しました。日方町はその後も発展を続けましたが、昭和9年（1934年）5月1日、黒江町、内海町、大野村といった周辺の町村と合併し、新たな自治体である海南市が発足する際にその歴史を終えました。これにより、日方町は海南市の大字「日方」として引き継がれることとなりました。戦後、昭和32年（1957年）には、大字日方の一部から馬場町一丁目から三丁目、および山崎町一丁目から三丁目という新たな町名が設けられ、現在見られるような地区の区分が形成されました。

交通面では、地区内をJR紀勢本線が通過していますが、残念ながら駅は設けられていません。しかし、最寄りの駅である海南駅は地区から非常に近く、かつては「日方町駅」という名称でした（1936年に改称）。また、過去には重要な鉄道・軌道路線がこの地を通っていました。1994年まで運行されていた野上電気鉄道野上線の終点「日方駅」はここに位置し、地域の重要な足となっていました。さらに、1971年までは南海和歌山軌道線の日方停留場や野上電車前停留場も存在し、賑わいを見せていました。現在の公共交通は主に和歌山バスが担っており、和歌山市方面や紀三井寺方面、マリーナシティ方面などへ向かう複数の系統が運行されており、地域住民の生活を支えています。道路網としては、前述の国道42号、国道370号、そして和歌山県道18号海南金屋線が地区内を通っており、広域的な交通アクセスにも恵まれています。

日方地区内には、海南市の行政の中心である海南市役所をはじめ、海南市立海南中学校、海南市立日方小学校、海南市立日方幼稚園といった教育機関、海南日方郵便局、海南警察署、海南市消防本部、海南医療センターといった公共・医療施設が集積しています。また、海南市児童図書館や海南文化服装学院、県営住宅海南駅前団地なども見られます。歴史ある神社仏閣としては、伊勢部柿本神社、永正寺、神田地蔵寺、久豊寺などが点在しており、地域の文化や信仰の中心となっています。

2012年10月1日現在、日方地区の人口は4,762人であり、海南市内の主要な居住地域の一つとなっています。歴史的な変遷を経て、現在は海南市の行政、教育、医療、商業などの機能が集まる、活気ある地区として位置づけられています。

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