名草郡

名草(なぐさぐん)



名草は、古代から紀伊国(現在の和歌山県)に存在したです。その歴史は古く、大化の改新後には日前神宮・國懸神宮神[[郡]]として建てられ、紀伊国府が置かれるなど、重要な地域でした。しかし、明治時代に海部と合併し、海草となったことで、その名前は消滅しました。

古代の名草



名草の歴史は、『日本書紀』に登場する「名草邑」にまで遡ります。名が初めて記録に現れるのは、『続日本紀』の大宝3年(703年)です。この記述によれば、名草の代わりにを献上していたとされています。また、『和名類聚抄』には、名草紀伊国国府の所在地であったと記されています。この国府は、現在の和歌山市府中に比定されています。

紀氏が所蔵する『国造次第』によると、名草は19代紀伊国造である紀忍穂によって開設されたとされています。忍穂の冠位が「大山上」であったことから、孝徳天皇期(645年-654年)にが設置されたと推測されています。名の由来については、『続風土記』に「其名義は詳ならずも或説に渚の義ならむといへり」とありますが、詳しいことはわかっていません。

名草は、伊勢国渡相度会[[郡]])、伊勢国多気[[郡]])、安房国安房[[郡]]、出雲国意宇筑前国宗像[[郡]]などとともに、孝徳天皇期から天武天皇期にかけて順次設置されたとされる八神[[郡]]の一つに数えられていました。日前神宮・國懸神宮の所在地として重視され、養老7年(723年)には司に近親者の連任が許されるという特例措置がとられました。これは、神社を代々守ってきた紀氏を重視したためと考えられています。

と神戸



和名類聚抄』には、名草内のが多数記録されています。名草には多くの式内社があったため、内には多くの神戸(神社の領地)が存在しました。これらのと神戸が混同されたため、『和名類聚抄』の写本によって名に多くの混乱が生じています。

以下に主なと神戸を挙げます。



大屋(おおやごう): 大屋都比売神社に由来。現在の和歌山市宇田森・弘西・西田井に比定されます。
直川(のうがわごう): 紀伊国衙の推定地。現在の和歌山市直川・府中・田屋・小豆島・松島に比定されます。
苑部(そのべごう): 現在の和歌山市六十谷・園部・善明寺などに比定されます。
大田(おおたごう): 現在の和歌山市太田に比定されます。
大宅(おおやけごう): 海部屯倉に由来。現在の和歌山市手平・北出島・新中島・杭ノ瀬に比定されます。名草衙の推定地です。
忌部(いんべごう): 紀伊忌部の本貫地。現在の和歌山市井辺に比定されます。
断金(だんごんごう): 河辺屯倉の推定地。現在の和歌山市永穂に比定されます。
駅家(うまやごう): 近世まで宿駅が存在した。現在の和歌山市山口に比定されます。
野応(のおごう): 現在の和歌山市山口・藤田・上野・北野に比定されます。
有真(ありまごう): 現在の和歌山市鳴神に比定されます。
荒賀(あらかごう): 現在の和歌山市黒田に比定されます。
大野(おおのごう): 現在の海南市大野中・幡川・重根に比定されます。
旦来(あつそごう): 現在の和歌山市本渡・小瀬田、海南市多田・山崎町に比定されます。

神戸



神戸(かんべごう): 忌部神戸と推定されています。和歌山市鳴神周辺に分していたと考えられます。
津麻神戸(つまかんべ): 都麻都比売神社の神戸です。和歌山市禰宜周辺に分していたと考えられます。
国懸神戸(くにかかすかんべ): 國懸神宮の神戸です。和歌山市秋月周辺に分していたと考えられます。
島神戸(しまかんべ): 志磨神社の神戸です。和歌山市中之島周辺に分していたと考えられます。
大屋神戸(おおやかんべ): 大屋都比売神社の神戸です。和歌山市宇田森周辺に分していたと考えられます。
日前神戸(ひのくまかんべ): 日前神宮の神戸です。和歌山市秋月周辺に分していたと考えられます。
伊太祁曽神戸(いだきそかんべ): 伊太祁󠄀曽神社の神戸です。和歌山市伊太祁曽周辺に分していたと考えられます。
須佐神戸(すさかんべ): 須佐神社の神戸です。和歌山市口須佐・奥須佐周辺に分していたと考えられます。

この他にも、『和名類聚抄』には見られない「宇治」「宇治保」「片岡里」「埴生里」などの地名が存在しました。

式内社



延喜式』神名帳には、名草内の式内社が多数記載されています。名草には紀伊国の半数以上の神社が集中しており、その中心は紀伊国造家が奉斎する日前神宮・國懸神宮でした。

明治維新後



明治維新後の「旧高旧領取調帳」によると、名草には1町142村8浦が存在しました。1879年明治12年)に区町村編制法が施行され、和歌山城下の区域は和歌山区(現・和歌山市)としてから分離しました。残りの区域に行政区画としての名草が発足し、海部と共に「名草海部役所」が管轄しました。



1879年に行政区画として発足した当時の名草域は、現在の和歌山市の大部分(木ノ本、榎原、古屋以西および吐前、金谷以東を除く)、海南市の一部(別院、沖野々、木津、次ケ谷、ひや水、海老谷以東および下津町各町を除く)に相当します。

沿革



1871年明治4年):廃[[藩置県]]により、領が和歌山県、新宮県、田辺県の管轄となる。
1872年明治5年):第一次府県統合により、全域が和歌山県の管轄となる。
1873年明治6年):出島村が改称して手平出島村となる。新村が永穂村に合併。
1879年明治12年):区町村編制法の施行により、和歌山城下の区域が和歌山区としてより離脱。残部に行政区画としての名草が発足。
1883年明治16年):新出島村が桑山村に改称。
1884年明治17年):南出島村の一部が納定村に改称。
1889年明治22年):町村制の施行により、29の町村が発足。「名草海部役所」の所在地が宮村となる。
1896年明治29年):制の施行により、名草と海部が合併して海草が発足し、名草は廃止。

町村制以降の主な町村



楠見村、野崎村、松江村、貴志村、山口村、紀伊村、直川村、川永村、有功村、宮村、鳴神村、岡町村、中ノ島村、岡崎村、三田村、宮前村、西和佐村、四箇村、和佐村、安原村、紀三井寺村、日方村、内海村、大野村、亀川村、黒江村、巽村、西山東村、東山東村

名草は、古代から重要な地域であり、多くの歴史的な遺産を残しています。その歴史は、現在の和歌山県の成り立ちを理解する上で欠かせないものです。

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