日本の獣肉食の歴史
日本の獣肉食の歴史は、古くは
旧[[石器時代]]にまで遡ります。当初は
狩猟によって得られた
シカや
イノシシなどの野生
動物の肉が主なタンパク源でした。しかし、
仏教の伝来とともに、獣肉食は次第に敬遠されるようになります。それでも、完全に肉食が途絶えることはなく、時代とともに人々の獣肉に対する考え方は変化していきました。
旧[[石器時代]]には、花泉
遺跡や
野尻湖立ヶ鼻
遺跡などで、ハナイズミモリウシ、
オーロックス、ヤベオオツノジカ、
ナウマンゾウなどの大型
哺乳類が解体され、食用にされていたことが明らかになっています。これらの
遺跡からは、解体痕のある骨や、解体に用いられたと思われる
石器が発見されています。当時の
日本列島は
亜寒帯性の
針葉樹林が広がっており、
植物性の食料が乏しかったため、人々は大型
哺乳類の
狩猟に大きく依存した生活を送っていたと考えられます。
採集時代
縄文時代に入ると、
貝塚などから鹿や猪の骨が大量に発見されるようになります。これらの
動物の肉が食料の中心であったことが伺えます。その他にも、
クマ、
キツネ、
サル、ウサギなど、60種以上の
哺乳類が食べられていたと考えられています。調理法としては、焼く、あぶる、煮るなどがあり、
動物の臓器も栄養源として利用されていました。糞石の分析からは、
オットセイやアザラシなども食されていたことが分かっています。
農耕時代
弥生時代になると、農耕が始まり、
イノシシの比率が増加します。これは、大陸からブタが導入され、
家畜として飼育されていたことを示唆しています。ただし、文献資料によれば、当時の日本では牛や馬はまだ一般的ではありませんでした。一方で、獣肉食は続けられており、特に
狩猟で得た肉は貴重なタンパク源として重宝されました。この時代には、肉を生で食べる習慣も見られ、
神事では生肉や
膾が用いられました。
貴族の時代
古墳時代には、薬猟と称して鹿や猪の
狩猟が行われ、その肉は滋養のある薬として用いられました。また、牛や馬が大陸から渡来し、肉や内臓が食用や薬用にも利用されるようになりました。しかし、
飛鳥時代に
仏教が広まると、
動物の殺生が禁じられるようになり、肉食もたびたび禁止されるようになります。それでも、鹿や猪などの
狩猟で得た肉は完全に禁じられることはなく、貴族の間では乳製品の摂取も盛んになりました。
平安時代に入ると、貴族の間では
食肉の禁忌がさらに強まり、鳥や魚肉が食されるようになりました。この時代には、獣肉を売る職業や、獣肉を塩漬けや醤油漬けにした加工品も現れました。
武士台頭の時代
鎌倉時代になると、
武士の台頭とともに獣肉に対する禁忌が薄れ、
武士は
狩猟で得た鳥獣を食べるようになりました。しかし、公卿の間では依然として禁忌が守られており、
武士が寺院で
鹿肉を食べて公卿を怒らせるという場面も記録されています。
仏教の影響から肉食を忌避する動きもありましたが、一部では肉食を肯定する考えも現れました。
室町時代には、
タヌキ汁が登場する「
かちかち山」が成立するなど、獣肉食が一般にも広がりつつありました。
戦国時代・安土桃山時代
戦国時代には、
南蛮貿易を通じて新たな食材がもたらされました。宣教師は、
日本人が牛、豚、羊の肉を忌避し、猟で得た野獣肉を食べることを記録しています。一方で、宣教師自身は
牛肉を信者に勧め、
復活祭で振る舞ったという記録もあります。戦国末期からは、阿波などで商業捕鯨も始まりました。しかし、秀吉は牛馬の肉を食べることを禁じており、依然として獣肉食は地域や身分によって異なっていました。
江戸時代には、建前としては獣肉食の禁忌が守られましたが、実際には獣肉料理店も存在し、獣肉食は一部の人々の間で続けられていました。特に薩摩地方では、豚肉食の習慣がありました。
生類憐れみの令によって一時的に獣肉食が抑制されましたが、その後は再び広まりました。18世紀には獣肉食を肯定する研究も行われ、乳製品の利用も一部で行われました。
19世紀には、
猪肉を山鯨、
鹿肉を紅葉と呼んで売る店も現れ、獣肉食が一般的になりつつありました。
近代
明治時代になると、
牛肉を食べることが
文明開化の象徴とされ、政府は肉食を奨励しました。
すき焼きが流行し、牛鍋屋が各地にできました。しかし、獣肉食を穢れとする考えも根強く、一部では反対運動も起こりました。
日露戦争を契機に、
牛肉の大和煮
缶詰や乾燥
牛肉が考案され、軍隊で肉の味を覚える人が増えました。また、豚肉の消費量も増加し、大正時代にはとんかつが登場するなど、獣肉食が一般化しました。
中国料理、韓国・朝鮮料理の普及
明治時代には、横浜や神戸に中華街が形成され、
中国料理が広まり始めました。大正時代に入ると、一般向けの中華料理店も開店し、家庭料理にも取り入れられるようになりました。韓国・朝鮮料理の普及はやや遅れましたが、1930年代には東京に朝鮮料理店が増加しました。
内臓食
肉だけでなく、内臓も食されていました。特に、戦時中や戦後の食糧難の時代には、内臓料理は重要なタンパク源となりました。
1920年代には「ホルモン料理」という言葉も登場し、1930年代には一般にも広まりました。
太平洋戦争中
太平洋戦争中は食料が不足し、特に下層階級は内臓料理を食べる機会が増えました。また、朝鮮人労働者が臓物を食べる姿も記録されています。
占領期から現代
戦後、食糧事情は悪化し、
闇市では犬や猫の肉を含む様々な獣肉が売られました。しかし、学校給食の再開や、ブロイラーの登場などによって、食生活は徐々に改善されました。
1960年代からの高度成長期には、
食肉の需要が急増し、現代では獣肉食は一般的な食文化として定着しています。
このように、日本の獣肉食の歴史は、
狩猟から始まり、
仏教の影響による禁忌、そして近代の
文明開化による肉食の奨励を経て、現代の多様な食文化へと繋がっています。