日本海大海戦 海ゆかば

日本海大海戦 海ゆかば

概要

『日本海大海戦 海ゆかば』は、1983年6月4日に東映系で公開された日本の歴史映画です。舛田利雄が監督を、笠原和夫が脚本を手がけ、カラー、ビスタサイズで製作されました。本作は、日露戦争における重要な局面である日本海海戦を題材としていますが、一般的な英雄伝とは異なり、戦艦三笠に乗り合わせた軍楽隊員たちの視点から物語が展開される点が特徴です。

東映戦争三部作

本作は、同じ舛田利雄監督と笠原和夫脚本のタッグで製作された『二百三高地』（1980年）および『大日本帝国』（1982年）と合わせて、「東映戦争三部作」と称されています。これら三部作は、公開当時は一部メディアから「反動的」との批判も受けましたが、いずれも戦場の最前線で血を流しながら衝突する兵士たちの人間模様を生々しく描き出すことに焦点を当てています。また、戦地へ赴く男性を案じる女性の存在を丁寧に描いていることも、これらの作品群の共通する特徴の一つです。なお、本作の冒頭に登場する要塞攻略の場面は、『二百三高地』の映像が流用されています。

物語の焦点

物語は、日露戦争が勃発して二年が経過した1905年、二百三高地での激戦に勝利した日本軍が、日本海でロシアのバルチック艦隊を迎え撃ち、戦争の趨勢を決定しようとしていた状況下で始まります。主要な登場人物は、軍楽隊に所属する若き隊員、神田源太郎（沖田浩之）です。彼は恋人である娼婦のせつ（三原順子）の引き止める想いを振り切り、連合艦隊の旗艦「三笠」へと乗り組みます。

戦争描写

本作は、一軍楽隊員の目を通して、戦艦内部での兵士たちの日常や、彼らの間に生じる確執を描き出します。クライマックスの日本海海戦シーンにおいても、戦闘の経過そのものよりも、艦内で負傷し、倒れていく兵士たちの凄惨な光景が中心に据えられています。たとえ勝利という結果に終わる戦いであっても、戦争がいかに過酷で非人間的なものであるかを、本作は重厚な筆致で訴えかけています。連合艦隊旗艦「三笠」の軍楽隊という特殊な立場に置かれた若者たちの青春と、彼らが直面する生と死が、この戦争ドラマの核となっています。

スタッフ・キャスト

監督の舛田利雄、脚本の笠原和夫をはじめ、撮影は飯村雅彦、特技監督は中野昭慶が担当しました。ナレーションは仲代達矢が務めています。音楽は伊部晴美が手がけました。

キャストには、東郷平八郎役で1969年の映画『日本海大海戦』でも同役を演じた三船敏郎が出演。主人公の神田源太郎を沖田浩之が演じ、その恋人せつを三原順子が務めました。その他、宅麻伸、ガッツ石松、横内正、佐藤浩市といった俳優陣が脇を固めています。軍楽隊の責任者役で伊東四朗、また平幹二朗が明治天皇役、丹波哲郎が山本権兵衛役で出演しています。なお、過去作『二百三高地』からの映像流用に伴い、あおい輝彦、新沼謙治、佐藤允の出演シーンも含まれています。

製作と関連エピソード

本作の製作は1982年2月に公表され、製作費は13億円を要しました。脚本の笠原和夫は、従来の東郷平八郎を主役とする視点ではなく、軍楽隊というユニークな切り口から日露戦争を描くことを発案しました。海軍の軍楽隊が実際に戦闘に参加したのは日本海海戦のみであり、この事実に着想を得て「変化球勝負」に出たといいます。しかし、完成した作品について当時の岡田茂東映社長は、「ええ本やったけど、映画になったらあかんわ。監督に音楽的才能ないな」と評したとされています。

脚本家・笠原和夫に関するエピソードとして、本作の完成後、『零戦燃ゆ』の脚本執筆を経て、岡田社長から「昭和天皇の映画」の脚本依頼を受けました。脚本は完成し、関係者の評価も得ましたが、宮内庁などの反対により企画は頓挫。この幻に終わった企画は、笠原に大きなショックを与え、以降の仕事への影響があったとも語られています。

その他

公開時には、ヨドバシカメラが一定額以上の購入者を対象に鑑賞券をプレゼントするキャンペーンを実施しました。また、MSX用のレーザーディスクゲームとしてもメディア展開されました。

本作はDVDやBlu-rayとして映像ソフト化されており、近年では東映シアターオンライン（YouTube）での無料配信も行われ、再び注目を集めました。

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