日高秩父

日高秩父（ひだか ちちぶ）は、1853年（嘉永5年）に生まれ、1920年（大正9年）に没した、明治から大正期にかけて活躍した人物です。内大臣秘書官、東宮御学問所御用掛という要職を歴任する一方で、書家としても名を馳せました。正五位勲三等という位階を持ち、号を梅渓（ばいけい）、または槑谿とも称しました。

栃木県出身の日高秩父は、幼少の頃より書を学び、長三洲（ちょうさんしゅう）に師事しました。書家としての才能を開花させるとともに、蘭学者である箕作阮甫（みつくり げんぽ）の孫娘と結婚し、箕作家との姻戚関係を結びました。

特に注目されるのは、文部省の委嘱によって、国語の国定教科書『尋常小学書キ方手本』（明治36年）などを揮毫したことです。これらの教科書は、師である長三洲の書風を受け継ぎつつ、顔真卿（がんしんけい）の楷書の特徴を取り入れた、いわゆる「顔法」で書かれており、当時の教育現場に大きな影響を与えました。没後、国定教科書の揮毫は弟子の山口半峰（やまぐち はんぽう）が引き継ぎました。

書家としての活動は教科書のみにとどまらず、全国各地の石碑にもその筆跡が見られます。現在までに確認されている石碑は30基ほどに及び、その書は後世にも受け継がれています。墓所は東京都台東区の谷中霊園にあります。

日高秩父は、1906年（明治39年）に明治三十七八年従軍記章を授与されています。また、1884年（明治17年）にはスウェーデン＝ノルウェー連合王国から金製記章を授与されており、国際的にもその功績が認められていました。

家族構成としては、妻のリキは呉黄石（ごこうせき）の娘であり、多くの親族がいます。呉黄石は広島藩医で、その妻であるせきは箕作阮甫の長女です。また、リキの兄弟には統計学者の呉文聰（ご ぶんそう）、精神医学者の呉秀三（ご しゅうぞう）らがいます。日高秩父の子供たちは、貿易業に携わった次男の得二、北島常晴（きたじま つねはる）に嫁いだ長女の愛子、大島予吉（おおしま よきち）に嫁いだ次女の喜美子、大束健夫（おおつか たけお）に嫁いだ三女の勲子、田中家の養子となった三男の光三、元文部事務次官の四男の第四郎、そして書家となった五男の第五郎がいます。

日高秩父は、書家としての才能、教育への貢献、そして社会的な活動を通じて、明治から大正期にかけて多大な影響を与えた人物でした。その書は今もなお、多くの人々に愛されています。

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