旧華頂宮邸

旧華頂宮邸：鎌倉の洋風建築と歴史を語る由緒ある邸宅

神奈川県鎌倉市浄明寺にある旧華頂宮邸は、ハーフティンバー様式を取り入れた見事な洋風建築です。昭和4年（1929年）、華頂博信侯爵によって建てられたこの邸宅は、正確には宮邸ではありませんが、華頂侯爵家のルーツが華頂宮家にあることから、一般的に「旧華頂宮邸」と呼ばれています。鎌倉市もこの名称で紹介しており、現在では同市が所有しています。

華頂宮家と華頂博信侯爵

華頂宮家は明治元年に創設された宮家でしたが、4代目の華頂宮博忠王の薨去により一時廃絶。その後、博忠王の弟である伏見宮家出身の博信王が臣籍降下し、華頂宮家の祭祀を継承する華族・華頂侯爵家を創設しました。旧華頂宮邸は、この華頂博信侯爵が私邸として建設したものです。

鎌倉市に現存する戦前からの洋館としては、鎌倉文学館（旧前田侯爵別邸）に次ぐ規模を誇り、当初は常住を予定していましたが、実際には数年間しか居住されなかったと言われています。華頂侯爵夫妻（夫人は閑院宮載仁親王の第4王女華子女王、後に離婚）の生活の跡を偲ばせる、貴重な歴史的建造物です。

建築と庭園：ハーフティンバー様式とフランス式庭園の融合

南北に伸びる谷戸の北端に位置する旧華頂宮邸は、木造三階建ての主屋が中心です。洋小屋組み、木骨モルタル塗り（一部タイル貼り）の外壁、銅板葺きの切妻屋根と、ハーフティンバー様式の代表的な特徴が凝縮された、見事な建築技術が光る建物です。北面2階の窓の上下には、三角の木材を使った独自の装飾も見られます。

4500平方メートルの敷地に広がるのは、左右対称の幾何学模様が美しいフランス式庭園です。1階南側中央には、円弧型の手摺り子に囲まれたテラスがあり、下にはライオンを象った噴水と池泉が配されています。

建物内部は、華頂侯爵が居住していた頃の資料が乏しいため、各部屋の用途は必ずしも明確ではありません。しかし、南側庭園に面する1階の3部屋のうち、南西角の部屋は食堂だったと推測されています。大きな暖炉、長いテーブル、赤いソファ、庭園に面した大きな窓など、当時の様子を想像させる空間です。

1階東側の玄関ホールにある中央階段は、流麗な曲線が特徴的で、戦後の所有者の一人はこの階段に魅せられて購入を決めたそうです。2階にはバロック様式とゴシック調の部屋が隣接し、2階テラスのガラス扉にはアール・デコ様式の文様が描かれています。また、畳張りの和室も2つありますが、竣工当時から和室だったのは北側の部屋だけで、南西角の和室は元は洋室だったと考えられています。多くの部屋には、スチームヒーターを収納するためのマントルピースが設置されています。

使用人室だったと推測される数室の和室を備えた平屋も付属しています。

無為庵：移築された和風茶室

フランス式庭園の南側には、昭和初期に東京市上大崎に建てられ、昭和46年に移築された無為庵という和風茶室があります。「六十五才にして浄明寺宅間ヶ谷に余生を送らんが為　無為庵主」という棟札の記述が、その名前の由来です。八角形の天井、16本の棹縁、カリンやナンテンなどを使った柱など、独特の趣があります。茶室とともに移築された和風門も、昭和初期以前からの歴史を伝えています。

公開とアクセス

庭園は、年末年始と月曜・火曜（月火が祝日の場合は次の平日）を除き一般公開されています。建物内部は、春と秋の各2日間（計4日間）のみ公開され、公開時間は季節によって異なります。アクセスはJR鎌倉駅から京浜急行バスを利用、または徒歩で行くことも可能です。

ロケ地としての旧華頂宮邸

多くのドラマや映画、CMなどのロケ地として頻繁に使用されていることでも有名です。東京に近い立地と、歴史と雰囲気のある洋館が東京都内に少ないことが、ロケ地として選ばれる理由の一つではないかと考えられています。数多くの作品で、様々な役割を担ってきました。

まとめ

旧華頂宮邸は、歴史、建築、庭園、そしてロケ地としての側面を持つ、多様な魅力を秘めた場所です。鎌倉を訪れた際には、ぜひ訪れて、その歴史と美しさに触れてみてください。

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