明法寮

明法寮について

明法寮（めいほうりょう）は、1871年から1875年まで存在した、明治政府の司法省に設置された法律家養成機関です。明治維新後の法制度確立において重要な役割を果たしました。

設立の背景と目的

明治政府は、新しい政治体制を構築するにあたり、司法官を各方面に配置する必要に迫られていました。しかし、当時の日本では、法律の専門知識を有する人材が不足しており、司法省は法律家の養成を急務としていました。そこで、1871年9月27日に太政官達により、司法省内に明法寮が設置されました。当初の目的は、法律家を養成し、司法省の人材不足を解消することでした。

1872年5月には、明法寮に法学校が開設され、法学生徒の募集が始まりました。同年8月3日には、太政官達によって明法寮の機構と職掌が具体的に定められました。そこでは、明法寮の主な任務は、新法の起草や各国の法研究とされ、法学教育はその一部と位置づけられました。

教育内容と特徴

法学校の開校にあたっては、江戸幕府の洋学所の流れを汲む南校からも生徒が入学しました。また、フランス人教師としてジョルジュ・ブスケ、ギュスターヴ・エミール・ボアソナードを招聘し、フランス語による本格的な法学教育が行われました。

明法寮の役割は、法学教育だけでなく、個別の裁判にも及びました。当時の新律綱領には、律に規定のない犯罪については他の規定を類推適用するという「断罪無正条」の規定があり、司法省への伺いのうち、正条のない犯罪については、明法寮が議論し、その回答が法源として活用されました。

さらに、1872年には明法寮に民法会議が開設され、民法の草案編纂作業も始まりました。

廃止とその後

1875年5月4日、太政官布告により明法寮は廃止され、その事務は司法省本省に移管されました。明法寮の生徒は、司法省法学校の正則科第一期生として引き継がれ、1876年までに卒業しました。

明法寮の跡地には、一時的に大審院が置かれました。

主な官員と生徒

明法寮には、楠田英世、鶴田皓、津田真道などの官員が在籍し、運営に携わりました。

また、井上正一、栗塚省吾、木下広次、岸本辰雄、宮城浩蔵など、後の法律界を担う多くの人材が明法寮で学びました。彼らは、裁判官や大学の創設者、法律学者など、多方面で活躍しました。

まとめ

明法寮は、短期間の活動でしたが、明治初期の法整備と人材育成において重要な役割を果たしました。特に、フランス法を導入した本格的な法学教育は、日本の近代法学の基礎を築いたと言えるでしょう。明法寮で育まれた人材は、その後の日本の法曹界を支え、近代国家の形成に大きく貢献しました。

参考文献

手塚豊「司法省法学校小史 (1) : 続続明治法制史料雑纂(四)」『法學研究 : 法律・政治・社会』第40巻第6号、慶應義塾大学法学研究会、1967年6月、54-84頁
手塚豊「司法省法学校小史 (2) : 続続明治法制史料雑纂(五)」『法學研究 : 法律・政治・社会』第40巻第7号、慶應義塾大学法学研究会、1967年7月、57-100頁
藤田弘道「改定律例編纂者考」『法學研究 : 法律・政治・社会』第48巻第2号、慶應義塾大学法学研究会、1975年2月、57-66頁
向井健「明法寮民法草案編纂過程の一考察」『早稲田法学』第57巻第3号、早稲田大学法学会、1982年7月、41-62頁
高見勝利「講座担任者から見た憲法学説の諸相 : 日本憲法学史研究序説」『北大法学論集』第52巻第3号、北海道大学大学院法学研究科、2001年、803-840頁
小林忠正「名の法をめぐる民法草案と全国惣体戸籍法の対峙 : 明治六年小野組転籍事件をとおして」（PDF）『日本法學』第78巻第1号、日本大学、2012年6月、29-64頁
* 大庭裕介『司法省と近代国家の形成』同成社、2020年。

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