明石砂浜陥没事故

明石砂浜陥没事故（あかしすなはまかんぼつじこ）は、2001年（平成13年）12月30日に兵庫県明石市の大蔵海岸公園で発生した人工砂浜の陥没事故です。正式名称や通称にはいくつかバリエーションがあり、明石市の報告書では「大蔵海岸砂浜陥没事故」、土木学会の報告書では「大蔵海岸陥没事故」とされています。

この事故では、人工的に作られた砂浜に突然大きな穴が開き、家族と散歩していた当時4歳の女児がその穴に転落、生き埋めとなりました。救出されたものの、女児は意識不明の重体に陥り、事故から約半年後の翌2002年 5月26日に5歳で息を引き取りました。死因は窒息に伴う低酸素脳症による脳障害でした。

この痛ましい事故は、海岸を管理する国と明石市の責任を厳しく問い、最終的に担当者ら4名が業務上過失致死の罪で有罪判決を受けることとなりました。この事故が発生した同じ年の夏には、大蔵海岸で開催された花火大会で、会場へ続く歩道橋において群集事故（明石花火大会歩道橋事故）が発生しており、明石市の安全管理体制が立て続けに問われる事態となりました。

事故の経緯

2001年 12月30日の昼過ぎ、東京都から帰省していた女児とその父親が大蔵海岸の砂浜を歩いていた際、突如、直径約80cm、深さ約2メートルにも及ぶ穴が砂浜に出現しました。女児はこの穴に転落し、砂に埋もれてしまいました。近くにいた父親が懸命に救出しようとしている様子を通行人が発見し、緊急通報。駆けつけた救急隊によって女児は救出されました。

女児はすぐに病院へ搬送されましたが、深刻な低酸素性虚血性脳障害により意識が戻ることはなく、入院から約5ヶ月後に帰らぬ人となりました。

事故原因と市の対応

事故の主な原因として、人工砂浜の基礎として海底に設置されたコンクリート製ケーソンの継ぎ目に使われていたゴム製の防砂板が劣化し、そこから砂が海へ流出した結果、砂浜の下に空洞ができていたことが挙げられました。この人工砂浜は、同年夏に事故が発生した朝霧歩道橋を含め、JR朝霧駅から大蔵海岸へのアクセスを改善するために一体的に整備されたものでした。

明石市が2004年に発表した事故報告書によると、市は海岸のパトロールを定期的に行っていましたが、その管理マニュアルは未整備でした。また、点検業務は市の関連団体やシルバー人材センターに委託されており、目視による確認が主でした。さらに問題だったのは、事故発生の2年前と前年にかけて多数の陥没が既に確認されていたにもかかわらず、その記録が十分に行われず、国への報告も怠っていたことです。

事故発生年の1月には住民からの通報を受け、応急的に穴を埋める措置を講じましたが、その後も事故まで毎月のように陥没が確認されていました。市はカラーコーンを設置するなどして注意を喚起していましたが、これは表面的な対応にとどまり、陥没そのものを防ぐ根本的な対策は取られませんでした。そして、年末の最終パトロールを終えた数日後に本事故が発生したのです。

事故後、市が市民からの情報提供を募ったところ、海岸の様々な場所で過去に陥没があったという情報が多数寄せられました。中には「子供がはまるのではないかと怖かった」といった保護者からの懸念の声も含まれていました。

報告書には、遺族からの指摘として、当時の市長が自身の通院で頻繁に病院を訪れていたにもかかわらず、女児の見舞いに一度も来なかったこと、また娘の死後すぐに葬儀の手配について言及したことへの違和感が記され、こうした市の姿勢が花火大会事故にも繋がったのではないかという意見も掲載されました。

刑事訴訟

事故を受け、兵庫県警察は2004年に、大蔵海岸の管理に関わっていた国土交通省および明石市の担当者計4名を業務上過失致死の容疑で書類送検しました。これを受けて神戸地方検察庁は4名を在宅起訴しました。

2006年の神戸地方裁判所での第一審では、事故の予見可能性が認められず、被告人全員に無罪判決が下されました。しかし、2008年の大阪高等裁判所での控訴審では、一審判決が破棄され、事故の予見可能性が認められて審理が差し戻されました。

差し戻し後の神戸地裁での審理は2010年に始まり、裁判所は一転して事故の予見可能性を認定。安全対策を怠った責任を認め、被告人4名全員に有罪判決（禁錮1年執行猶予3年）を下しました。被告側は上告しましたが、2012年に大阪高裁が差し戻し審判決を支持し、2014年には最高裁判所が上告を棄却したことにより、有罪判決が確定しました。

事故後

この砂浜陥没事故に加え、同年の花火大会歩道橋事故が発生した責任を取り、当時の岡田進裕明石市長は2003年の統一地方選挙前に任期途中で辞職しました。

事故発生から20年となった2021年12月30日、また女児の命日から20年となった2022年 5月26日には、当時の泉房穂明石市長をはじめとする市幹部職員らが現場を訪れ、献花を行いました。市は事故の教訓を風化させず、安全対策の徹底を図る決意を新たにしました。

現在、大蔵海岸には事故で亡くなった女児を追悼し、その在りし日の姿を象ったブロンズ像「『愛しい娘』像」が建てられています。像は、肩に小鳥を乗せ、おさげ髪の少女が砂浜に立つ姿をかたどっています。

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