春本富士夫

春本富士夫：映画と舞台を彩った名脇役

春本富士夫（はるもとふじお、1912年6月2日-2001年2月19日）は、日本の新派俳優として知られる人物です。大阪市出身で、本名は井上喜吉（いのうえよしきち）。子役時代から数々の芸名を使い分けながら、映画や舞台で活躍しました。そのキャリアは実に長く、多岐にわたる活動が注目されます。

華麗なる芸名の変遷と輝かしい子役時代

幼少期より芸能界に入り、子役時代は「市川小蝦（いちかわこえび）」、「井上潔（いのうえきよし）」などの芸名で活動。8歳の時、日活関西撮影所に入社し、将来を嘱望された市川姉蔵とともに映画界に足を踏み入れました。しかし、姉蔵の急死という悲劇に見舞われた後、牧野省三監督のもとで「牧野教育映画製作所」に参加。主演作『豪傑の一夜』（1922年）などに出演し、早くから才能を発揮しました。その後も「マキノ潔（まきのきよし）」を名乗り、マキノ・プロダクションで活躍。マキノ登六らと「マキノ青年派」を結成し、数々の作品に出演しました。

新派俳優としての活躍と晩年

マキノ・プロダクション解散後は、関西新派を経て、花柳章太郎に入門。「春本喜好（はるもとよしよし）」として活動したのち、大映に入社。「春本富士夫」を名乗り、映画界でさらに活躍しました。溝口健二監督作品への出演も経験し、幅広い役柄を演じ分ける演技力は高く評価されました。石原慎太郎原作の『処刑の部屋』など、話題作への出演も多く、その存在感は群を抜いていました。

1960年代半ばに映画界から離れ、再び新派の舞台へと戻りました。晩年は「春本泰男（はるもとやすお）」名義で現代劇にも出演していましたが、新派で名脇役として活躍し続けました。商業演劇への出演も多数経験し、その幅広い活動は、演劇界全体に大きな貢献を果たしました。

多くの名作への出演と豊かな芸歴

春本富士夫は、牧野省三監督作品や溝口健二監督作品など、多くの名作に出演しました。そのキャリアは、120本以上の映画出演という数字が物語っています。代表的な作品としては、『豪傑の一夜』、『弥次と北八』、『小雀峠』、『万花地獄』、『神州天馬侠』、『残菊物語』、『大あばれ孫悟空』、『処刑の部屋』、『赤線地帯』、『悪名無敵』などがあります。これらの作品における彼の演技は、日本の映画史において貴重な足跡として残されています。

家族と死

春本富士夫の息子には、六代目尾上松助と大谷桂三がいます。また、孫には二代目尾上松也と春本由香がいるなど、芸能一家として知られる存在でした。2001年2月19日、転移性肝がんのため88歳で死去しました。

春本富士夫は、映画と舞台双方で長年にわたり活躍した名脇役でした。その多様な芸名、幅広い演技力、そして豊かな人間性は、後世に語り継がれるべき貴重な存在です。彼の残した作品と功績は、日本の演劇史に永遠に刻み込まれることでしょう。

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