春風亭柳枝 (8代目)

八代目 春風亭 柳枝

八代目 春風亭 柳枝（しゅんぷうてい りゅうし）は、戦後の東京で活躍した昭和期を代表する落語家の一人です。本名を島田 勝巳といい、1905年12月15日に生まれ、1959年10月8日に惜しまれつつ亡くなりました。高座に上がる際の出囃子には「三下り鞨鼓」を用いていました。

来歴

東京・本郷に生まれた柳枝は、音曲師であった四代目柳家枝太郎を父に持ち、幼い頃から芸の道に触れる環境で育ちました。

1921年3月、四代目春風亭柳枝の門を叩き、前座として枝女太（しめた）と名乗り芸界入りを果たします。当時の所属は睦会でした。翌年5月には二ツ目に昇進。1923年1月には名を睦ノ太郎と改め、さらに2年後の1925年4月には真打への昇進を果たし、同時に八代目春風亭柏枝と改名しました。その後も改名を続け、1934年11月には八代目柳亭芝楽を名乗ります。

芸界の動きにも影響を受け、1937年に所属していた睦会が解散した後のこと。春風亭小柳枝の九代目襲名を巡る騒動が発生し、これがきっかけで日本芸術協会（当時の会長は八代目桂文楽と六代目三遊亭圓生師弟でした）との間にわだかまりが生じました。こうした経緯から、柳枝は落語協会への入会を決意します。

そして戦時中の1943年3月、ついに「八代目 春風亭 柳枝」を襲名し、看板落語家として歩みを進めることとなりました。

人物

八代目柳枝の人となりは、温厚篤実そのものであったと伝えられています。人から何を言われても「結構です」と応じる鷹揚な性格から、周囲からは親しみを込めて「お結構の勝っちゃん」という愛称で呼ばれていました。その高座は、丁寧で穏やかな物腰で語られる芸風が特徴であり、これが多くの客を引きつけ、高い人気を得る要因となりました。

しかし、そんな温和な彼にも数少ない欠点がありました。それは、普段の丁寧さとは打って変わって、酒が入ると人格が変わったように荒れてしまうことでした。酔っては「（八代目桂）文楽がなんでェ！」などと大声で毒づき、翌朝には深く反省して謝罪に赴くことが日常茶飯事であったという逸話も残されており、彼の人間的な一面を物語っています。

若い頃には、当時将来を期待されていた若手落語家5人組で「五大力」という研究会を結成し、互いの芸を磨き合いました。また、戦後には自宅に稽古部屋を設け、後進の育成に熱心に取り組みました。特に、後に名跡を継ぐ五代目三遊亭圓楽（当時は吉原）とは生前に親交が深く、熱心に稽古をつけていたことが知られています。

主な演目

八代目柳枝は幅広い演目を持ちネタとしていましたが、中でも得意としたのは以下のような噺でした。

• - 高砂や
• - 宗論
• - 王子の狐
• - 野ざらし
• - 甲府い
• - 熊の皮
• - 子ほめ
• - のめる
• - 花筏
• - 宮戸川
• - ずっこけ
• - 花色木綿

など。

門下

彼には多くの弟子がいましたが、柳枝が1959年に急逝した際、門下生は皆まだ前座でした。そのため、師の死後は全員が他の師匠の門下に移籍することとなりました。具体的には、春風亭枝吉と春風亭枝女吉は六代目三遊亭圓生門下へ、春風亭枝二は林家彦六門下へ移籍しました。また、春風亭枝之助は落語家を廃業しています。春風亭枝葉も一時は四代目三遊亭圓遊門下へ移った後、落語家を廃業し、新宿末広亭の従業員となったと言われています。

晩年

八代目春風亭柳枝は、1959年9月23日に脳出血で倒れ、療養虚しく同年10月8日に53歳でその波乱に富んだ生涯を閉じました。温厚な人柄と丁寧な芸風で多くのファンに愛された名落語家でした。

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