春駒

春駒：多様な顔を持つ日本の文化

「春駒」という語は、一見すると単一の概念を表しているように見えますが、実際には日本の文化において多様な側面を持つ、奥深い言葉です。本記事では、玩具、門付け芸、郷土菓子、そして詩という、春駒が関連する4つの主要な領域について解説します。

1. 玩具としての春駒

春駒は、子供たちが遊ぶ伝統的な玩具です。張り子やその他の素材で馬の頭を模した形状をしており、竹の棒を差し込み、車輪を取り付けることで、子供が跨って遊ぶことができます。古くは藤原時代の書物にもその記述が見られることから、長い歴史を持つ玩具であることがわかります。現在私たちが目にするような形状になったのは、江戸時代以降とされています。

2. 門付け芸としての春駒

正月の門付け芸として、春駒は古くから行われてきました。獅子舞と同様に、新年の幸福を祈願する予祝の行事の一つです。馬の首をかたどったものを持ち、歌い踊りながら家々を訪ね、金銭を受け取る芸人がいました。

『故事要言』には、正月、馬の形をしたものを頭に被り、歌い舞う風習の記述があります。江戸時代には、非人など特定の身分の人々によって行われる物貰いの芸として認識されていましたが、次第に芸者や役者など、より幅広い層の人々によって、座敷や舞台でも披露されるようになり、新年の祝い踊りとして各地に広まりました。

その起源は、平安時代の宮中行事「白馬節会」に遡ると考えられています。白馬を見て邪気を払うというこの行事が、春駒の門付け芸のルーツとなったようです。また、春先に放し飼いにされる馬を指す言葉が語源という説もあります。


幕末の武士、内藤鳴雪は、自身の正月における春駒の門付けの体験を詳細に記録しています。その記述からは、春駒の芸人たちが三味線で囃し立てながら歌い、踊り、簡単な芝居まで披露した様子がわかります。

3. 民俗芸能としての春駒踊り

春駒は、民俗芸能として様々な地域に伝承されています。馬の頭を模した胴をつけ、三味線や太鼓の囃子に合わせて祝い唄を歌い踊る形式です。

地域によってその様式は様々です。例えば、新潟県佐渡地方や山梨県甲州市塩山一之瀬高橋では、春駒踊りが伝承されており、養蚕の神とされることもあります。岐阜県白川村の春駒踊りは、岐阜県重要無形民俗文化財に指定されています。また、沖縄の「じゅり馬」は、かつて那覇の遊郭の女性たちが旧暦正月20日に行列し、踊った芸能として知られています。


これらの春駒踊りは、単なる娯楽にとどまらず、地域固有の信仰や文化と深く結びついていることがわかります。

4. 郷土菓子としての春駒

鹿児島県には、春駒という郷土菓子があります。晒し餡、上新粉、白玉粉、小麦粉、黒砂糖、白双糖などを混ぜ合わせ、円柱状に成形して蒸したものです。その食感は、ういろうに似ていると言われます。

元々は、鹿児島城下新照院通町の武士によって作られたとされ、かつては数十センチメートルにも及ぶ長さで作られていたため、「うまんまら（馬ん摩羅）」と呼ばれていました。現在のような「春駒」という名称になったのは、献上された際に、より婉曲的な表現として言い換えられたためだと言われています。献上された相手については、当時の島津藩主や皇族など、諸説あります。

5. 詩としての春駒

詩人、高村光太郎は1924年（大正13年）、遠山村（現・成田市）で水野葉舟とともに下総御料牧場を訪れた際に、「春駒」という題名の詩を作りました。この詩は、三里塚記念公園内に詩碑として建立されています。

まとめ

このように、「春駒」は、玩具、門付け芸、郷土菓子、詩という、一見すると無関係に見える複数の領域にまたがる、多様な側面を持つ言葉です。それぞれの領域において、春駒は人々の生活や文化、信仰と深く結びついており、日本の歴史と文化を理解する上で重要な要素となっています。それぞれの地域における春駒の多様な表現形式は、日本の文化の豊かさと奥深さを象徴していると言えるでしょう。

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