昨日のつづき

「昨日のつづき」：台本を超えたフリートークの先駆け

ラジオ関東（現在のアール・エフ・ラジオ日本）で、1959年7月6日から1971年4月3日まで、毎週月曜から金曜日の22時25分から10分間放送されたラジオ番組が「昨日のつづき」（きのうのつづき）です。この番組は参天製薬の一社提供でお届けされました。

画期的なスタイルの誕生

番組の企画段階では、放送作家が執筆した台本に基づき、出演者がトークを繰り広げる形式が想定されていました。しかし、番組がスタートした1950年代後半は、日本各地で民間放送が開局ラッシュを迎えており、放送作家は極めて多忙で、彼らの手による台本制作が放送スケジュールに追いつかない状況でした。この困難を乗り越えるため、番組スタッフは異例の決断を下します。それは、台本執筆を依頼するはずだった放送作家自身がマイクの前に立ち、文字通り「台本なし」で会話を進めるという、当時としては極めて斬新な手法でした。

この偶然から生まれたスタイルは、結果的に日本で最初の本格的なフリートーク形式のラジオ番組を生み出すことになりました。出演者たちの生の声や個性、偶発的な会話の流れがそのままリスナーに届けられる、ライブ感あふれる放送が特徴となりました。

個性豊かな出演者たち

番組開始当初のパーソナリティは、前田武彦と永六輔という、後に各界で大きな影響力を持つことになる二人の放送作家でした。アシスタントは女優の冨田恵子が務めました。しかし、永六輔は番組開始後まもない時期に制作スタッフとの意見の相違から降板します。その後は日替わりで複数のパーソナリティが登場する期間がありましたが、やがて大橋巨泉に落ち着きました。大橋巨泉は、客を入れずに行われていた夜中の番組収録に頻繁に立ち会い、何度か飛び入り参加したことがきっかけでレギュラーとなったと言われています。

この大橋巨泉は、番組のエンディングでアシスタントが語る「今日の話は昨日のつづき、今日のつづきはまた明日」という、耳に残るキャッチフレーズを考案したとされています。大橋巨泉も約2年間で番組を離れましたが、前田武彦はその後も長く出演を続けたことから、「昨日のつづき」は一般的に前田武彦の代表的なラジオ番組として記憶されています。前田、永、大橋の他にも、青島幸男、佐野洋、はかま満緒、保富康午、小林信彦といった、放送作家や文化人、後の政治家などがパーソナリティとして登場し、番組に彩りを添えました。

番組の収録は、東京ヴィデオ・ホールで行われましたが、スタジオに一般の観客を入れることはなく、深夜にひっそりと行われていたようです。

突然の終焉

約12年にわたって多くのリスナーに親しまれた「昨日のつづき」は、1971年4月3日の放送をもって突然打ち切られました。この突然の幕引きの主な原因とされているのが、メインパーソナリティであった前田武彦の放送中の発言です。1971年3月10日と3月22日の放送で、前田が特定の都知事候補への支持を示唆する「ぼくはみのべ派だ」という発言をしたことが、一部の聴取者からの抗議の電話を招き、また局内で政治的な公平性を欠くとの問題提起に繋がったとされています。

この事態に対し、ラジオ関東の社長（当時）であった遠山景久の意向により、番組の打ち切りが決定されたと言われています。さらに、前田武彦は局への出入りを禁じられたとも伝えられています。

短い放送時間ながら、日本におけるフリートーク形式のラジオ番組の先駆けとして、その革新的なスタイルと個性豊かな出演者たちの語りで、ラジオ史に確かな足跡を残した番組でした。

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