時には母のない子のように

時には母のない子のように

「時には母のない子のように」（ときにはははのないこのように）は、シンガーのカルメン・マキが1969年2月21日にリリースしたデビューシングル盤レコードです。規格品番はSONA 86024。

楽曲の背景と制作

この楽曲は、寺山修司が主宰していた演劇実験室◎天井桟敷に新人女優として所属していたカルメン・マキのために企画され、彼女の歌手としての門出を飾る作品として世に送り出されました。作詞は寺山修司自身が担当し、作曲は寺山の秘書も務めていた田中未知が手掛けています。

寺山修司は作詞にあたり、有名なゴスペルソングである「Sometimes I feel like a motherless child」（時には、私は母親のいない子のような気持ちになる）から着想を得たとされています。歌詞は、孤独や喪失感を抱えながらも、どこか遠くを見つめるような内省的かつ詩的な世界観を構築しています。

楽曲の大きな特徴として、イントロとエンディングに用いられている波のSEが挙げられます。これは録音スタッフが神奈川県湘南の海岸で実際に録音した音が使用されており、曲の持つ叙情性や漂泊感をより一層際立たせています。

発表とその影響

本作はリリースされるや否や大きな反響を呼び、カルメン・マキはこの曲で1969年末に行われた第20回NHK紅白歌合戦への出場を果たしました。これは彼女のキャリアにおいて重要な出来事となり、楽曲と共にその存在が多くの人々に知られるきっかけとなりました。

オリジナル盤のジャケット写真は瀬戸邦彦が撮影を担当しました。レコード盤としては7インチシングルながら、当時のコンパクト盤に見られるような中心部が大きな仕様で発売され、「中心孔を38.2mm（ドーナッツ）に変更されたい方は特約店迄お申し出ください。」という案内が記載されていました。レコード盤の中央には回転数を示す「45」が印刷されています。

後年の展開

オリジナル盤の発表から24年後の1993年5月7日には、東芝EMIより新たな録音による再録音盤が8cmシングルCDとしてリリースされました（規格品番：TODT-3055）。

また、本作には1969年当時に録音されていたイタリア語ヴァージョンが存在します。イタリア語詞はDaniele Paceによるものですが、この音源は長らく未発表の状態でした。陽の目を見たのは1998年10月21日にソニー・ミュージックレコーズから発売されたアルバム「カルメン・マキ ベスト & カルト」への初収録によってです。さらに、2016年4月20日にdisk unionよりアルバム「カルメン・マキ真夜中詩集ーろうそくの消えるまでー」が紙ジャケット仕様で復刻された際には、ボーナス・トラックとして追加収録されました。

なお、作詞を手掛けた寺山修司は、後にこの楽曲をモチーフにした大人向けのメルヘン作品を書き下ろし、本作と同じ『時には母のない子のように』というタイトルで出版しています。

収録曲

7インチシングル盤 「時には母のない子のように」（1969年）

A面：時には母のない子のように (演奏時間：3分22秒)
作詞：寺山修司／作曲：田中未知／編曲：山屋清
B面：あなたが欲しい (演奏時間：2分44秒)
作詞：林亜湖／作曲：山路進一／編曲：山屋清
この曲は1973年に『同棲時代』に関連して再発されており、その際のジャケットアートワークは上村一夫が手掛けています。

8cmシングルCD 「時には母のない子のように」（1993年）

1. 時には母のない子のように (演奏時間：3分40秒)
作詞：寺山修司／作曲：田中未知／編曲：Mac Chew & Jenny Chin
2. 波の音（詩・朗読） (演奏時間：4分24秒)
作詩：寺山修司／作曲：（SE)：スペイン民謡／編曲：Mac Chew & Jenny Chin
3. 時には母のない子のように（オリジナル・カラオケ） (演奏時間：3分31秒)
作詞：寺山修司／作曲：田中未知／編曲：Mac Chew & Jenny Chin

カバー

美空ひばり - 2008年にリリースされたアルバム『エンカのチカラ -SONG IS LIFE 70's-』に収録されています。

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