時の扉 (WANDSのアルバム)

WANDSセカンドアルバム『時の扉』：ミリオンセラーと記録的快挙の影にあるもの

1993年、日本の音楽シーンに衝撃を与えたアルバムがある。ロックバンドWANDSのセカンドアルバム『時の扉』だ。この作品は、単なる音楽作品という枠を超え、数々の記録を樹立し、バンド史に燦然と輝く金字塔として記憶されている。

前作からの変革と新たな出発

前作からのメンバーチェンジを経て、本作はキーボードの木村真也を迎えた新生WANDSによる初めてのフルアルバムとなった。同時にリリースされたシングル「愛を語るより口づけをかわそう」も大ヒットを記録し、相乗効果でアルバム全体の成功に大きく貢献した。興味深いのは、アルバム全体に明確なコンセプトは存在せず、メンバーそれぞれが自身の内面を表現する形で制作されたという点だ。上杉昇のインタビューによると、楽曲制作はメンバー一人ひとりが自身の思いを吐き出す作業の積み重ねによって進められ、結果として多様な魅力が詰まった作品が完成したという。まさに、バンドの転換期、そして新たな出発を象徴する一枚と言えるだろう。

記録的セールスとオリコンチャートでの快挙

『時の扉』は、リリースと同時にオリコンチャートで1位を獲得。ミリオンセラーを達成するなど、商業的な成功も収めた。特に注目すべきは、同日発売のシングル「愛を語るより口づけをかわそう」と共に、初登場から4週連続でオリコンチャートのシングル・アルバム両部門で首位を独走したという驚異的な記録である。これは、オリコンチャート史上初の快挙であり、2021年現在においても破られていない記録として、その偉業は色褪せることなく輝き続けている。1993年度の年間アルバムチャートでも2位を獲得しており、WANDSのアルバムの中でも最も売れた作品として、その人気ぶりは明らかだ。

楽曲の魅力と多様な表現

アルバム収録楽曲は、先行シングルとしてリリースされた「時の扉」を始め、バラエティに富んだ楽曲で構成されている。DEENのデビューシングル「このまま君だけを奪い去りたい」のセルフカバーは、オリジナルとは異なる上杉昇による歌詞で新たな魅力を放っている。また、「星のない空の下で」は、上杉の亡くなった親友への思いを綴ったとされ、その切ないメロディーと歌詞は多くのリスナーの心を掴んだ。「もっと強く抱きしめたなら」はアルバムバージョンで収録されており、シングルバージョンとは異なるギターパートが聴きどころとなっている。その他にも、「ガラスの心で」「そのままの君へと…」「孤独へのTARGET」「Mr.JAIL」「Keep My Rock'n Road」「世界中の誰よりきっと 〜Album Version〜」など、様々なタイプの楽曲が収録されており、WANDSの音楽性の幅広さを示している。「Keep My Rock'n Road」は上杉がWANDSで初めて単独作曲した楽曲であり、彼の作曲家としての才能も垣間見ることができる。

批評家の視点とアルバムの評価

音楽専門誌『CDジャーナル』は、本作について辛口の批評を展開している。そこでは、楽曲の完成度やアルバム全体のまとまりについて疑問を呈し、商業的な成功の裏側にある制作過程の難しさや、バンドのアイデンティティについての考察が示されている。この批評は、商業的な成功の裏側にある制作過程の苦労や、バンドのアイデンティティについての議論を促すものとなっている。しかし、その一方でミリオンセラーという圧倒的なセールスは、このアルバムが当時の人々の心を捉えていたことの証左と言えるだろう。

まとめ

『時の扉』は、商業的な成功、記録的なチャート記録、そして多様な楽曲群によって、WANDSの代表作として、そして日本の音楽史に残る名盤として、現在も高い評価を受けている。このアルバムが持つ様々な要素を考察することで、1990年代前半の日本の音楽シーンを理解する上で重要な手がかりが得られるだろう。様々な解釈が可能な作品であり、聴く人それぞれの心に深く刻まれる名盤であると言える。

もう一度検索